第二章 京都

第二章 京都

第六十七話「床」

 祇園の朝、まだ七時にもなっていないのに、なんだか蒸し暑い。今日も暑くなりそうだ。でも、二日連続の徹夜で、会長の罵声を夜通し浴び続けて迎える朝は、暑さや寒さが感じられないほどに、身体の全ての英気が失われたような、まさに放心状態だ。普段から決...
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第六十六話「指示」

 とりあえず罰金もなく無事に済んだけど、店で起こったトラブルについては逐一報告することになっているから、携帯電話を取り出して、佐伯専務に電話をかける。店に出勤したら坂本がいて、アルバイトの西島くんの従業員名簿が抜けてて、警察に呼び出されて、...
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第六十五話「罰金」

 所轄の警察が見回りに来て、まず確認するのが、従業員名簿だ。この名簿に名前のない女の子が働いているのが見つかると、警察署に呼び出されたり、罰金を払わなければならなかったり、何かと面倒だ。坂本は、名簿を手に持って、女の子たちの部屋を次々と確認...
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第六十四話「無心」

 内藤さんへの説教は、本当に朝の六時過ぎまで延々と続いた。会長の罵声は、夜明けまでボリュームが下がることは無かったが、内容は繰り返しが多くて「お前の考えるイベントは、芸がないねん。」という台詞は、ひと晩で三十回くらい聴いた。俺を引き合いに出...
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第六十三話「セダン」

 俺の馴染みの店だったらマズいなと思いつつ、会長と専務と内藤さんの後ろを歩く。俺も一時期、湯水のように金を使って祇園を飲み歩いていたから、ちょっとした有名人だ。下手に知り合いの店だったりしたら、会長の面子を潰すことになるかもしれない。目立た...
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第六十二話「初対面」

 佐伯店長、いや、佐伯専務と一緒に木屋町を歩いているだけで楽しい気分になる。俺が結婚する前は、毎晩のように飲み歩いていたけど、このところ、たまに店で顔を合わせる程度だったから、この感じが懐かしい。夕暮れの木屋町の美しさを敏感に感じるのも、少...
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第六十一話「引っ越し」

 言い争いが絶えない日々から、沈黙の冷戦時代を経て、ついにシズエが家を出て行った。お互いに求め合った毎日は、僅か一年ほど前のことなのに、遥か昔のことのように感じる。店長になることが決まった夜を、受け取り人不明となったバラの花束が放り投げられ...
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第六十話「溢れる涙」

 結局、店長からも良い答えは出てこなかった。店長の携帯電話が数分おきに鳴ったり、俺は店の用事で呼び出されたりと、ふたりとも忙しなく中座を繰り返したけど、用事が済めば元の椅子に戻り、向かい合ったままで沈黙の時間を過ごした。日が暮れて、さすがに...
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第五十九話「着信あり」

 シズエとの夫婦生活の惨状とは裏腹に、仕事の方はすこぶる調子が良い。マネージャーの仕事は、すぐに結果が見えないものばかりだけど、新規の客数が確実に増え続けているし、リピート客についても新規に応じて増えている。俺が採用した女の子たちの活躍も顕...
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第五十八話「トライ」

 酒の勢いがないと、うちへ帰ることが出来ない。シズエが、まだハルカだった頃に、初めて二人で酒を飲んだバーのカウンターに座り、マスターの咎めにも応じず、入れたばかりウィスキーのボトルを何本か飲み干す。酔わないと帰れない自宅ってなんだろう。  ...
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