第一章 東京

第一章 東京

第二十五話「お立ち台」

 地獄の坂を駆け上がった最後の馬が、いよいよゴールした。よく頑張った、精一杯に走り切りよった。すごいぞ。俺ひとり、両手をあげて拍手を送る。右手には、あの馬の単勝馬券を握り締めたままで。お前の最高の走りを見せてくれてありがとう。 良く見たら、...
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第二十四話「デビュー」

 年が明けて、正月は京都で過ごした。家族三人で、初詣は伏見稲荷大社に行き、おせちはオヤジが祇園の料亭でこしらえてもらったものを食べた。今年から、いよいよ社会人としての生活がスタートする俺は、身の引き締まる思いで、三が日を堪能した。  本来で...
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第二十三話「赤坂にて」

 営団地下鉄千代田線の赤坂駅から、一ツ木通りに向かって地上に出て、面接会場へと向かう。ここに初めて来た時には、リクルートスーツに身を固めた男女が群れを成していて、この中から、たった三十人しか選ばれないのかと思うと、決して自分にはチャンスがな...
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第二十二話「ダート」

 スターターが赤い旗を上げ、ファンファーレが響き渡り、各馬がゲートへと収まる。興奮で武者震いをする馬、場内の雰囲気に飲まれている馬、人気とは裏腹に気合の入ってなさそうな馬、様々な表情を見せる馬たちが、ゲートが開くと同時に、一斉にダートコース...
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第二十一話「先生」

 ベッドの上で胡座をかいたオヤジは「迎えに行かれへんかって、ごめんな。」と言う。自宅で倒れているところを、たまたま回覧板を持ってきた近所の人に発見されて、病院に搬送されたと聞いて、朝一番の新幹線で飛んできたのに、なんだか元気そうだ。「起きて...
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第二十話「十万円」

 「もうちょっと何か俺の自己紹介とかさせてくれても良いのにな。」と思いながら、便器を磨く。数日前に小便をしたトイレを、俺が掃除しているのかと思うと、ついついニヤけてしまう。俺の歌舞伎町の裏の世界の歩みは、トイレ掃除から始まった。ピカピカにし...
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第十九話「裏方」

 大学受験のために来た東京で、初めて訪れた新宿歌舞伎町は、華やかで煌めいていて、でもアンダーグランドの匂いがして、怖い街だった。もう何度目かなんて分からないけど、いまだに威圧感を感じなくはない。行き交う人たちを見ながら「あのオッサン、ヤクザ...
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第十八話「米」

 失恋のショックなんて何ひとつ無かった。俺は日々、新しい女の子と出会い、ひと晩を共にする生活を続けている。週に三回はファッションへルスに通い、週一回はメタル専門のライブハウスに出入りし、週末には克己と一緒に競馬場に出掛ける。 失恋のショック...
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第十七話「すっぽん」

 咄嗟に「違うねん。」と言った。でも、窓の外にいるアキコの耳には届くわけがない。急いで窓を開けようとしたとき、アキコが「サイテイ」と言った。もちろん、アキコの声は聞こえないんだけど、間違いなくアキコは“最低”と言った。「誰?だれ?」と何度も...
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第十六話「肩越し」

 ひとりの女は熟睡していて、もうひとりの女は電話で俺と話している。つまり、二人とも俺の姿は見えていないし、俺を挟んで両側に対峙していることには気づいていない。とにかく気持ちを落ち着けよう。焦ったら負けだ。「ねーねー、ヒロくん。聞こえてる?」...
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