この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百五十四話「ピチピチ組織論」

time 2017/06/23

第二百五十四話「ピチピチ組織論」

成人式のニュースを見ながら、自分の娘たちが二十歳を迎えるのが何年後なのかを計算しながら、その頃の俺は、いったい何をしているんだろうかと想像してみる。たぶん、ピチピチグループを離れることは無いとは思うけど、あまりに先の話だから何があってもおかしくないとは思う。今の会長の勢いを見ていたら、日本国内だけでは飽き足らず、世界展開するとか言い始めて、グローバル企業になっているかもしれないな。

「沖縄の方も、だいぶ話は進んでんねん。」
「誰を行かせるんですか?」
「それが問題や。誰もおらへん。」
「誰もおらへんって。まじっすか、会長。」
「そうや、それだけが問題や。」

俺とクリちゃんは雄琴のソープランドだし、石川部長は道後温泉で手一杯、鮫島部長に関しては地場の京都を統括する役目があるから地方には出れない。沖縄計画が持ち上がった当初は、鮫島部長の部下から人選する予定だったみたいだけど、北海道の調子が良すぎて次々と店舗を増やしているから、そっちに人材をとられてしまって、沖縄の面倒までは見れる状況ではないらしい。

「田附のとこで、誰かおらんのか?」
「うちは、先頭に立って開拓できるような奴は、いないですね。」
「ちゃんと人材育成をやっとけよ。」
「いや、うちは基本的にチームプレイなんで。」
「そうやな。」

沖縄のソープランドは、開店さえできれば儲かるだろうということで幹部の意見は一致している。会長自らが何度も沖縄に足を運んで、買収交渉と並行して市場調査をした結果を元に判断すると、沖縄は絶対に儲かる。だから、人材が不足していることを理由に、計画を中止するのは、あまりにも惜しい。とはいえ、働く人間がいなければ、店は開かない。

「俺が行っても、良いんですよね?」
「はぁ?」
「いや、部下を行かすことは出来ないんですけど。」
「お前が行くのは、ええんか?」
「はい、俺が抜ける分には、全く問題ないです。」

鮫島部長の作る組織は、上から下に向けて指示命令が徹底される強固な組織だ。見事に統制が取れていて、急な方針変更にも即座に対応できる。しっかりと腹心となる人材を育てることにも余念がないし、本当に心から感心する。一方の俺は、明らかに真逆の組織作りだ。現場でお客さまと接する女の子たちからの声が最優先で、現場のマネージャーたちが問題解決に取り組み、どうしても手に負えない問題なら店長に上げられ、それでも解決不能なら俺のところに上がってくる。

「店が回り始めたら、基本的に俺はやることがないんで。」
「ホンマに、お前が沖縄に行くねんな。」
「はい、行きます。」
「よっしゃ、分かった。ほな、田附で。」
「ありがとうございます。」

たまに自分自身でも呆れることがある。どうして俺は、その場の直感だけを信じて、ただ自分の好奇心だけに従って、急な行動に出てしまうんだろうか。今朝、十数年後の俺が何をしているのか分からないって考えていたばかりだけど、いきなり沖縄に行くことを進言する流れになるとは、さすがに予想できなかった。

「俺、沖縄に行くことになってん。夏ぐらいから。」

以前なら、こんな風にサエコに報告しなければならなかったけど、今は根無し草だから、どこにでも自由に飛んでいける。いや、別に離婚していなくても、沖縄行きをサエコに相談したとは思えないし、相談したところでサエコが反対することも無かっただろうけど。

「浩平、ちょっと良い?」
「おはようございます、社長。どうしたんですか?」
「俺、沖縄の店を任されることになってん。」
「おめでとうございます。」
「この店は、大丈夫やんな?」
「はい、全く問題ないです。」

たしかに俺も、会長に対して同じように「全く問題ないです。」とは言ったけど、開店からずっと一緒にやってきた浩平から、こんな風にあっさりと言われると、ちょっと寂しい。いや、落ち込んでいる場合ではないから、俺の思い通りに組織作りが出来ていることを喜ぶしかない。次から次へと新しいことにチャレンジしたいと思える自分、そして俺のチャレンジを応援してくれる部下、こんな素晴らしいことは無いわ。俺、全然、寂しくないで。

「おい、田附。」
「はい、もしもし、会長。」
「栗橋は、ソープの担当から外すからな。」
「ええ、どういうことですか?」
「アイツは、全くアカン。外す。」
「わ、分かりました。でも・・・」
「なんや?」
「誰が引き継ぐんですか?」
「それは、分からん。誰もおらん。」

もうメチャクチャや。俺が京都から雄琴に来るまでの間に、何があったのか知らんけど、人材不足を補おうと「俺が行きます。」なんて言った俺の気持ちを、会長は分かってくれてんのかな。この組織は、いったいどうなってんねん。

「よう分からんけど、クリちゃんが外されたらしい。」
「マジっすか。」
「うん。」
「ってことは、社長がプレステージも兼任ですか?」
「いやいや、俺はもうナイチャーのことは知らんさ。」
「え?大丈夫ですか?」
「なんくるないさぁ、なんくるないさぁ。」
「社長、もう沖縄に行く気マンマンですね。」

 

第五章「雄琴」 完


sponsored link

down

コメントする