この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百五十二話「緊張感が」

time 2017/06/21

第二百五十二話「緊張感が」

家族が出て行ってしまった自宅は、俺ひとりには広すぎる。いつ何時、どんな女の子を招き入れることになるか分からないから、リビングと寝室だけは掃除を怠らないようにしているけど、俺ひとりで掃除するには広すぎる。ベッドメイクをしながら、ここでミカとのメッセージのやりとりが見つかって説教されたことを思い出し、リビングを眺めながら、あの「離婚してください。」に至るまでのやりとりを思い出す。

「なんで俺も一緒に呼び出されてんの?」
「会長が言ったんで、俺は何とも。」
「クリちゃんは、昨日も会長と会ってたんやろ?」
「プレステージの件で、会議してました。」
「俺に電話が来たのって、あれ、会議中なん?」
「そうです。」

雄琴二号店の名前が、ピチピチプレステージに決まった。俺の時と同じく、クリちゃんがプレステージの運営会社の社長となって、営業に関する全責任を負うことになっている。補佐というかアドバイザーというか、クリちゃんを助けてあげる役回りを俺が担当しているんだけど、会議に関しては会長とクリちゃんの二人で話をまとめて欲しいというのが正直なところだ。

「いきなり、今から来いって言われて、焦ったわ。」
「田附社長は、雄琴ですもんね。」
「こっちはこっちで、全体会議をしてたから。」
「あ、ソープでも会議ってするんですね。」
「当たり前やん。」
「そういうもんなんですね。」

これから自分が先頭に立って新店を運営していくというのに、こんな感じで大丈夫なのかと不安になる。俺の場合は雄琴進出の第一弾だったから、何から何まで知らないこと尽くしで、ソープランドで行われる全てのことを把握しようと必死になって情報収集をした。ちょっと大袈裟な言い方になるけど、店内に温水を供給するボイラーから、スタッフの胸元に刺さってるボールペンまで、ありとあらゆる物事に神経を配った。どうもクリちゃんには、そういう緊張感が感じられへんねん。

「栗橋には、緊張感が感じられへんねん。」
「え?」
「なんや田附、俺の言うてることは間違ってるか?」
「いや、まぁ、やり方は人それぞれなんで。」
「分かった。それやったら、ええわ。」

まさしく俺が感じていた通りのことを、会長が言ったのだから、そのまま頷いていたら良いものを、思わずクリちゃんをかばうような発言をしてしまった。会長室から出た後、「すみません。」とか「ありがとうございます。」とか、何か言ってくれるだろうと思っていたら、ひとりだけ勝手に気持ちを入れ替えて「昼飯は何にしましょう。」なんて言ってるクリちゃんには、ちょっとムカついた。

「ごめん、俺、一周年の準備があるから。」
「あ、忙しいんですね。」
「なんやねん。俺のこと、暇人やと思ってんの。」
「いや、そういうわけじゃないんですけど。」
「ホンマ、頼むでクリちゃん。」

会長があれだけブチ切れているのに、全く響いていないクリちゃんに対して、俺が何か言ったところで無駄なような気がする。実際のところ、プレミアムの一周年から年末年始に向けて、俺も本当に忙しいから、手取り足取りのサポートはしてあげられない。クリちゃんもプレステージに行くんだろうから、雄琴に向かう途中で一緒にランチをするつもりだったけど、本社の前で別れて、そのまま解散した。

「浩平、おはよう。」
「おはようございます、社長。」
「何も問題ない?」
「問題は無いんですけど、十二月の週末の予約が。」
「どうしたん?」
「もう既に、ギチギチに埋まってきてます。」

さすがは俺がゼロから作り上げた店舗だ。この一年間で、雄琴のソープランドを代表する店になった。プライベートで色んなことが起こりすぎて大変な一年だったけど、仕事では十分な成果を上げることができた。

「よし、十二月も、しっかり働くで。」
「仕事に集中ですね。」
「そうや。もっともっと良い店舗にするからな。」
「他にやることが無いですからね。」
「浩平君、なんか感じ悪いな、その言い方。」


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