この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百五十一話「手続き」

time 2017/06/20

第二百五十一話「手続き」

娘二人を連れて、サエコが家を出ていった。家からも遠くない場所にあるマンションで暮らしている。あの夜、俺の帰りを待ち受けていたサエコは既に離婚を覚悟していたし、お互いの主張をぶつけ合うなかで俺も離婚を避けられる方法はないと思った。だから、離婚しない方法について考えるという無駄な試みをせず、ただ最短距離で離婚を成立させるための手続きが進んだ。あっという間の一か月だった。

「田附社長、離婚したんですね。」
「そうやねん。クリちゃんは、どうなん?」
「俺は、ひとりと長続きしませんから。」
「あの美人の彼女とも別れたんやったっけ?」
「いつの話をしてるんですか。随分前のやつでしょ。」
「そうやな、二年くらい前かな。」
「さすがに別れてるでしょ、二年って。」
「そうやんな。俺、がんばった方やんな。」

俺が離婚のことでゴタゴタしている間に、ピチピチプレミアムに隣接するソープランド極楽の買収が決まった。垢抜けていない昔ながらの中級ソープランドだけど、とにかく広大な駐車場が魅力的だ。プレミアムよりも低い価格帯の店舗を持つことによって、グループとしては幅広い客層をターゲットにすることが出来る。俺が開拓した雄琴が、どんどん盛り上がっていくで。

「そういえば、あれ、聞きました?」
「なんのこと?」
「会長が、沖縄進出や!って言うてる話です。」
「まじで?まだ攻める気なんや。」
「元気ですよね。」

北海道で上がっている利益は全て、次の店舗の開業資金に回しているし、雄琴に関しては儲かっているとはいえ初期投資を回収できるまでには、まだ時間がかかるというのに、さらに沖縄に進出するって、いくらなんでも攻めすぎじゃないかと思う。まぁ、会長のやることを信じて、全力で動き回るのが俺たちの役目だから、グループの方針には文句を言うつもりはないけど。

「なんか沖縄は、めっちゃ儲かるらしいですよ。」
「そうなんや。」
「何年も前のやり方のままで、何も変わってないって。」
「雄琴と一緒やん。」
「そうですね。」
「新しいやり方に変えたら、余裕で集客できるってことか。」

俺が雄琴でやったパターンを会長が参考にしてくれているようで、これは素直に嬉しい。客引きやサンドイッチマンを使わないという硬派な姿勢に惹かれて、俺はピチピチグループで働きたいと思った。当時は、こんな大胆な戦略を立てる会長は一体どんな人なんだろうと想像し、遥か雲の上の存在ではあったけど、いつかは自分も同じような発想が出来る人間になりたいと思い続けてきた。

「栗橋さん、ちょっと元気になってきましたね。」
「そうかな。あんまり変わってないと思うけど。」
「貧乏神っぽさが抜けてきましたよ。」
「いや、前はもっとバリバリ仕事しててんで。」
「そうなんですか、俺はその当時を知らないんで。」

たしかに浩平は、グループで働き始めて一年ちょっとだから、昔のクリちゃんを知るはずもない。でも、専務まで上り詰めた男なんだから、今のままで終わるわけがない。同じく専務だった佐伯さんと比べれば、貫禄が足りないし、十分な経験を積まないままに役職だけが上がってしまっていた感じはするけど、きっと今回の雄琴二号店で、大復活してくれるに違いない。

「俺は自由の身やから、ケイコに合わせられるで。」
「復縁とか、無いんですか?」
「ないない、絶対にない。」
「私も、離婚しようかな。」
「その方が、ええと思うで。どうしようもない旦那やから。」

もしかしたらタミーも、サエコに向って同じセリフを言っていたのかもしれない。色んな手続きが終わって、少し落ち着いて考えてみると、あの夜のサエコは俺に「離婚してください。」と言わせることを目標にしていたのではないかと思う。俺の方は呑気に「浮気してます。」と言わないことだけを目標にしていたことを考えれば、どう見てもサエコの方が上手だった。

「結婚って、何なんですかね?」
「それは、俺が聞きたいわ。」
「そうですね、すみません。」
「まぁ、ハンコを押して、すっきりしたわ。」
「次は、私の隣にハンコを押してくださいね。」
「うん、待ってるで。」


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