この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百五十話「形勢逆転」

time 2017/06/19

第二百五十話「形勢逆転」

言われてみれば、ここ最近、サエコは頻繁にビリヤードに出掛けていた。俺が昼間に京都での用事を済ませて自宅に立ち寄った時に、サエコが居なかったので電話してみたら、ビリヤードをしているから忙しいと素っ気なく返されたこともあった。リビングの鏡の前で素振りをしながらフォームを確認している姿を見て「なんか変やで。誰に教えてもらってんねん。」って言ったら、急にふてくされて無言のままで寝室に入ってしまったこともあった。思い当たる節が、山ほどある。

「どういうつもりやねん。」
「なにが?」
「浮気には浮気をって、復讐のつもりか。」
「はぁ?」
「アホとちゃうんか。どうすんねん。」

振り返ってみれば、珍しく家族サービスをしようと思い立って、あまり乗り気ではないサエコを誘ってビリヤード場に行ったのが、サエコとタミーとの最初の出会いだ。それが無性に腹立たしい。バラバラになりつつある家族をまとめようと、俺なりに考えてやったことが、完全に裏目に出た。なんとか夫婦として頑張っていこうっていう思いだけは、二人で共有できていると思っていた。

「ビリヤードに行くって言うて、実際は浮気してたんやな。」
「最初は、ホンマに楽しいから行ってたし。」
「そんなこと、堂々と言える神経が分からんわ。」
「だから、ビリヤードはビリヤード。浮気は浮気やねんって。」
「そんな理屈、知らんわ。」

ケイコが乱交パーティに楽しみを感じてくれているのを見て、誘って良かったと喜んでいるのと同じように、サエコがビリヤードを楽しんでいることにも、無理やりだったけど連れて行って良かったと喜んでいた。そんな自分が、まるでアホみたいやん。考えれば考えるほど、腹が立ってきた。

「ミカさんとの浮気は、いつから始まったんやったっけ?」
「それは、もう済んだ話やろ。」
「アンタが初めてミカさんとエッチした日、私は何をしてたかな?」
「それは、謝ったやん。」
「ちょうどサクラコの誕生日やったな。産んだ直後や。」
「話を逸らすなや。今は、サエコの浮気の話やろ。」
「アンタの浮気の話の方が先や。アホか。」

俺が追及したわけでもないのに、自ら浮気をしたと告白しておいて、ちょっと追及されたら俺の浮気のことをネチネチと言い始めるって、いったい何が目的やねん。俺が浮気をしているから、自分も浮気をしたっていう話なら、それは「お互い様ですね。」ってことで済む話やろ。自分のやったことは脇に置いておき、俺のことばかりを責め立てるって、誰が見たって不公平や。おかしいやろ。

「自分が言うてることがおかしいって、分からんの?」
「俺が悪者で、お前は被害者って面をすんなや。」
「誰もそんなこと言うてないわ。」
「言うてるやん。」
「言うてません。頭おかしいんとちゃうの。」
「自分の浮気は置いといて、俺のことだけ追及してるやん。」
「なにそれ?お互い様って言いたいの?」
「そらそうやろ。お前もタミーと浮気してんねんから。」
「私は初めてです。一回だけです。」
「回数の問題とちゃうやろ。」
「はぁ?」
「俺が二回やから、二倍悪いんか。」
「今、認めたな。二回って。」

口論で言い負かそうと必死になりすぎて、俺がまだ今回の浮気のことについて認めていないっていう大前提を忘れていた。冷静に対処しているつもりが、いつの間にか俺だけがヒートアップしていて、完全にサエコの術中にハマってしまった。サエコが浮気をしていると聞いて、形勢逆転だと思った自分が情けない。

「一回は仕方がないって、我慢したわ。」
「そうやったな。」
「次女の誕生日が、浮気記念日やねんで。」
「それは。」
「私が、どんな思いで居たか、分かってんの?」
「はい。」
「いいや、アンタは分かってない。絶対に。」

こうなったら、サエコの独演会を静かに頷きながら聞く以外に、選択肢は残されていない。旦那が浮気しているのではないかと疑いつつも、できれば自分の思い過ごしであって欲しいと期待してGPSを仕込んでみたら、仕事が忙しいから帰宅が遅くなると言っていた旦那が、随分と早い時間に職場から出て、どこかに立ち寄っていて、そこに何があるのかと調べてみたらラブホテルがあったり、自宅へ向かう道路を逸れて住宅街の方へと行ってたり、一度ならず二度までも浮気をしていることを知って、どれだけ自分が辛い思いをしたのかと熱弁を振るった。その間、俺は、五百回くらい「はい。」って言った。

「どう思ってんの?」
「はい。」
「はいって返事してたら済むと思うなよ。」
「ごめんなさい。」
「どうすんの?」
「離婚しようか。」
「聞こえへん。もう一回、はっきり言うて。」
「ごめんなさい。離婚してください。」


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