この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百四十九話「え?」

time 2017/06/16

第二百四十九話「え?」

今日は疲れたからスグに風呂に入って寝ようと思っていたのに、どうやら思い通りには進みそうにない。どうしてサエコが俺の浮気を疑っているのか、まずはその理由について探らなければならない。下手に口を滑らせたら負ける。浮気をしていることは事実だけど、それを認めないことが最終防衛ラインになる。

「な、なにを言うてんの?いきなり。」
「聞いてるんやけど。」
「なにを?」
「だから、アンタ、浮気してるやろ?」
「なんで、そんなことを聞くん?」

いったいサエコは何を知っているんだ。このパターンは明らかに、何かを知っている。それだけは間違いない。とはいえ、俺とケイコの交際は、白浜旅行と乱交パーティの二回を除けば、店から一緒に帰宅する雄琴から京都郊外までのエリアに限定されているから、サエコの行動範囲内のどこかで偶然に目撃されたりすることは絶対にない。

「別に、アンタだけが浮気してるんとちゃうから。」
「まぁ、浮気している男は、おるやろな。」
「男だけやったら、浮気は成立せえへんわ。」
「そうやけど。」
「ほら、白状せえや。浮気してるやろ?」

サエコの頭のなかでは一体、どんな論理が構築されているんだろうか。世の中の多くの男性が浮気をしているんだから、俺も浮気をしていることを認めろと言っているのか。もしくは、相手の女がいるからこそ浮気が成立するんだから、浮気相手の女の子のことも含めて白状しろと言っているのか。とにかく訳が分からん。

「正直に言うわ。」
「なに?」
「私も、浮気してんねん。」
「え?」

もう無茶苦茶だ。勝手にテンションがあがって、おかしな誘導尋問みたいなことを始めた。自分が浮気をしているという設定にして、だからお互い様だから俺にも浮気をしていることを認めろっていう筋書きか。サエコなりに考えて、俺に白状させるための作戦を思い付いたのかもしれないけど、さすがに無理がある。こんな幼稚な作戦に騙されて、俺が浮気を認めると思ってんのか。お前の旦那は、そんなアホとちゃうっちゅうねん。

「で、サエコは、誰と浮気してんの?」
「そんなことは、どうでもええやん。」
「いやいや、浮気してるんやろ?」
「そう。」
「浮気は、相手があってこその浮気やで。」
「え?」

はい、俺が一本取りました。ついさっき、サエコが俺に言ってきた理屈を、見事にブーメランで返したった。事前に考えていたのか、急に思いついたのか、どっちなのか知らんけど、作り話をするのなら綿密に設定を考えてから話をせんとアカンねん。もう馬鹿らしいから、早く風呂に入って寝よ。どうせ朝になったら忘れてるやろ。

「アンタは知らんやろうけどなぁ。」
「なに?」
「一時期、アンタが持ち歩いてたケータイなぁ。」
「え?」
「あのカオルコのケータイなぁ。」

ちょっと待ってくれ。今度は何を言い出したんだ、サエコよ。この流れで、あの子供ケータイの話が出るということは、つまりはそういうことだ。やっぱり早く風呂に入って寝るという流れには程遠いようだ。まさかの“グレート・ピンチ・修羅場”やん。いやいや、浩平みたいなことを言ってる場合じゃない。

「GPS付いてんねん。知らんかったやろ?」

ここで正直に「俺、知ってたで。」なんて返すわけにもいかない。かと言って、「え?ほんまに?」と大袈裟に驚いて見せるのも、それはそれでおかしい。なにか言葉を発しないとマズい状況だとは思うけど、どんな言葉が適切なのか、何も思い浮かばない。何ひとつ出てこない。

「相手の女は、店の子やな。」
「え?」
「なんて名前の子なん?」
「あの、えっと。」
「一緒に行ってるラブホテルは、なんて名前やったっけ?」
「いや。あのな。」

さすがにGPSだけの情報だから、詳細については知らないようだ。でも、かなり良い線を突いている。俺が浮気をしていると確信している浩平でさえ、まさか店の女の子と付き合っているとは考えていないだろうに、電波による追跡だけでそれを特定してしまうとは、やっぱりサエコは凄い。いや、感心している場合ではない。とにかく防戦一方ではマズいから、俺から反撃に出て、サエコを黙らせるしかない。

「そんなことより、サエコなぁ。」
「はぁ?なに?」
「俺の質問に、先に答えろや。」
「なんのこと?」
「お前の浮気相手は、誰やねん?」
「え?」
「だから、誰やねんって聞いてんの。」
「言うてええの?」
「おう、言えるもんやったら言うてみい。」

この状況を、誰か第三者が見ていたら、俺のあまりの醜態に爆笑することだろう。焦りの表情を浮かべながら、話を逸らそうと必死で抵抗している醜さは、俺自身が一番分かってる。でも、これ以外に、サエコの追及を逃れるための方法が見つかれへんねん。サエコが嘘をついたことを大袈裟に追及して、何とか脱出するしかないねん。浮気には相手が必要だって言ったのは、サエコだ。でも、明らかに作り話であるサエコの浮気には、相手がいるわけがない。だから、絶対に、具体的な相手の名前なんて出てくるわけがないねん。

「タミーやけど。」
「え?」


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