この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百四十七話「グレート何とか」

time 2017/06/14

第二百四十七話「グレート何とか」

恐る恐る「これ、なんでか分からんけど、まだ俺が持ってた。」と言って、子供ケータイを差し出した。サエコは、「念のためにカバンに入れとくで!って言うたやん。」と主張しているんだけど、俺には全くその記憶がない。

「余計なことをして、ごめんなさい。」
「いや、別に怒ってないねんけど。」
「心配した私が悪かったです。」
「違うって。気遣ってくれて、ありがとう。」
「そやろ。私もええとこ、あるやろ?」

これは判断が難しい。サエコの言葉を素直に受け取れば、俺のことを心配してくれての行為だから全く問題ない。でも、子供ケータイにはGPS機能が付いていると浩平が言っていたから、俺の行動を監視しようとしたサエコが、俺のカバンに子供ケータイをしのばせたという可能性も捨てきれない。

「今晩、帰りが遅なるから。」
「そうなんや。」
「終業後に全体ミーティングやねん。」
「大変やね。」
「一応、俺が社長やから仕方ないねん。」

もちろん、営業が終わってから全体ミーティングをするなんて嘘だ。ただ単に、帰りが遅くなると言った時のサエコの表情を確認したかっただけ。サエコは直情的な反応をする女だから、もし浮気がバレているのなら、黙って見過ごすわけなんて無いし、明らかに表情で分かる。

「ほな、行ってくるわ。」
「行ってらっしゃい。」
「うん。」
「しっかり稼いできてな。」

どうやらバレていない。浩平があんなことを言うから過剰に警戒してしまっているだけだ。きっと、ただの思い過ごしだったんだ。ママ友達とのランチタイムか何かで子供ケータイが話題になって、よその家庭を真似して購入してみたものの、使い方が良く分からなくて、そのまま放置していたんだろう。もしかしたらサエコも、GPS機能が付いていることを知らないのかもしれない。

「女の人の方が、機械モノに疎いですからね。」
「そう思うやろ、浩平。」
「使いこなしてないなら、無用の長物ですね。」
「そうそう。」
「子供が使ってたら、社長に貸しませんからね。」
「そうやんな。」

お前が余計なことを言って脅したから、俺がビクビクする羽目になったんだと思いつつも、楽観的な考えに賛同してくれる浩平の言葉には大いに励まされた。ミカとの浮気の追跡にGPSを駆使したサエコだから、機械モノに疎いとは思えないけど、様々な機能が付いている携帯電話のマニュアルを読むのに疲れて、使いこなせないままで放置されていた可能性はある。いや、きっとそうに違いない。

「それはそうと、浩平。」
「はい。」
「もしかしたら、隣を買収するかもしれんで。」
「え?フォーナイトですか?」
「違うわ!逆、逆。」
「ああ、“極楽”ですか?」
「そうそう、どう思う?」

会長の口ぶりからは、いつごろに買収する予定なのかを判断するのは難しいけど、極楽を買収するつもりで動いているのは間違いなさそうだ。下手に大っぴらに情報を流して、買収交渉に影響したらマズいけど、浩平にだけは伝えておいた方が良さそうだと判断した。

「近いですから、何かと便利ですね。」
「そうやろ。」
「あのデカい駐車場は、魅力ですね。」
「そうそう。」
「うちのお客様にも使って貰えますよね。」
「そう、その通り。」

俺も同じことを会長に言ったんだけど、思いっきり怒鳴られた。自分の部下が、自分と同じ考えを持ってくれているなんて、嬉しいことやん。もうちょっと穏やかに、俺みたいに部下と接してくれたらええのに。

「グレート・ピチピチ・スウィート!」
「なにそれ?」
「二号店の店名を考えてみました。」
「そのグレート何とか、長すぎて覚えづらくない?」
「じゃあ、短縮してGPSにしましょうか。」

やっぱり会長みたいに部下には厳しく接した方が良いのかもしれん。どうやら俺、完全に舐められてるやん。


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