この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百四十三話「二号店」

time 2017/06/08

第二百四十三話「二号店」

ピチピチプレミアムが好調なスタートを切ったこともあり、最近は会長と遭っても、以前ほどビビらなくて済むようになってきた。会長のやり方や思考パターンを理解しながらも、俺なりのオリジナリティを出せるようになってきたから、その辺は評価してもらえていると思う。ただ、会長とは違うアプローチで着実に成果を上げている鮫島部長の方が目立っているのも事実だ。

「今月は、単月で黒字になります。」
「ほんまか。」
「はい、ちょっと時間がかかりましたけど。」
「二号店のことを考えといてくれ。」
「分かりました。与沢に指示します。」

クリちゃんがどれだけ頑張っても何も結果が出なかった北海道のすすきの店が、鮫島部長の腹心の与沢によって、たった半年程度で稼げる店舗になった。石川部長じゃないけど、やっぱり鮫島派って、めっちゃ凄い。クリちゃんに能力が無かったというより、鮫島部長の指示を受けた与沢の能力が高いんだと思う。

「石川、お前はあの店で何をしてんねん。」
「今は、女の子のクオリティーをアップさせてます。」
「地域密着と観光地の違いを考えなアカンねん。」
「はい。」
「お前のやってることは、京都と変わらん。」
「はい。」
「なんでお前が行ってるんか、考えろ。アホ。」

会長って、豪快な経営者っていうイメージばかりが先行するけど、確固たる経営哲学のようなものを持っている思想家のような一面もある。石川部長に向かって怒鳴っている内容っていうのは、おそらく北海道でのクリちゃんの失敗を分析した上での、会長の見解なんだと思う。京都を制覇しただけでは飽き足らずに全国展開に打って出るし、そこから学ぶべきことを学んで、自分自身も確実に進化させている。ほんまに怪物みたいな人やわ。

「田附、お前も二号店や。考えとけ。」
「え?」
「何やねん、お前。ちゃんと聞いとけや。」
「二号店って言うのは?」
「雄琴や、雄琴。」

怪物が、また何か言い出した。すすきのは店舗型のファッションヘルスだから、二号店っていう話をするのは分かる。でも、雄琴っていうことはソープランドだから、規模が全く違う。もちろん、今すぐに二号店を開業するっていう話ではないと思うけど、もう今の段階で次のことを考え始めるとは、さすが会長としか言いようがない。

「俺は、何をすれば良いんですか?」
「二号店のことを考えて、アンテナを張っとけ。」
「分かりました。」
「あとは、プレミアムを圧倒的な存在にせなアカン。」

改めて会長の凄さというか偉大さを感じて、気が引き締まる思いだけど、今の俺の最大の関心事は依然として、例のオービスの件だ。キッチンのダイニングテーブルの上に茶封筒が置いてあるのを見つけるたびに、ついに和歌山警察からオービスの通知書が届いたのかとビクビクする生活が半月ほど続いている。

「俺に何か、封筒とか届いてない?」
「知らん。無いと思うけど。」
「そうか。無いなら、それでええねん。」
「怪しいな。何が届くん?」
「いや、あの、別に重要なものとちゃうから。」

幹部会議の席よりも、自宅で嫁と話をするときの方が緊張感があるって、どういうことなんだろうか。もっと気持ちが安らぐような落ち着いた場所が、自宅ってものだと思っていた。もちろん、頭のなかで想像しているのは、ケイコが「ただいま。」と言って迎え入れてくれる自宅の風景だ。

「俺に何か、封筒とか届いてない?」
「え?届いてないと思うけど、郵便受けを見て来るね。」
「いや、ええよ。俺が行くから。」
「大丈夫。仕事でお疲れなんだから、座ってて。」
「悪いな。ありがとう、ケイコ。」

ほら、こんな感じになると思うねん。絶対にこっちの方が、ええやん。いや、離婚なんてするつもりは無いから、ただの妄想なんだけど、ケイコと夫婦になれば幸せな毎日が送れると思うねん、俺。


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