この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百四十一話「光ったやろ。」

time 2017/06/06

第二百四十一話「光ったやろ。」

明るい場所で見るケイコというのも新鮮だ。自宅の近くまで迎えに行くのは怖いから、京都駅まで出てきてもらって、愛車のベンツでピックアップして白浜へと向かう。旦那に内緒で浮気相手と温泉旅行に行くことに興奮気味のケイコは、満面の笑みを浮かべながら、助手席に静かに座っている。俺の前でしか見せない笑顔だ。こっちまで嬉しくなる。

「混んでないし、ええ感じやん。」
「渋滞って、イライラしますからね。」
「ケイコも、イライラすることあるん?」
「たまに、旦那に怒られた時とか。」
「それは誰でもムカつくからな。」

こんな大人しいケイコがイライラするところを見てみたい気もするけど、残念ながら全く渋滞にハマることなく快適なドライブだ。名神から近畿自動車道を抜けて阪和自動車道へと、あっという間に抜けることが出来た。途中で何カ所か混むかと思ったけど、超快適なドライブやん。

「さすがベンツですね。気持ちいい。」
「もうちょっとスピード出してみよか。」
「はい。お願いします。」
「了解しました、ケイコ様!」
「うわ!」
「ほら、行くで!」
「今、グーンって、一気に加速しましたね。」
「まだまだ、こんなもんとちゃうから。」
「ごぼう抜き!もっと抜いて!」
「ほら、どけどけどけ!」
「もっと!もっと!」

あ、今、確実に光った。やたらと周りのクルマがゆっくり走っていると思ったら、オービスだ。ここって大阪か。いや、和歌山か。いずれにしても面倒くさい。最悪や。

「やられたわ。」
「どうしたんですか?」
「今さっき、光ったやろ?」
「え?」
「オービスやん。自動でスピード出し過ぎを取り締まるやつ。」
「光ったかな。気づかなかったけど。」

たしかに助手席に座っていると前ばかりを向いているわけじゃないから、気づかなかった可能性はある。名神に関してはオービスの場所を完全に把握しているし、近畿自動車道は空いていたとは言え、思いっきりスピードを出せるような道じゃない。阪和自動車道に入って、完全に気を抜いてた。やってもうたわ。

「パトカー、追いかけてきませんけど。」
「いや、いますぐには来えへんよ。」
「じゃあ、どうなるんですか?」
「しばらく経ってから、自宅に送られてくる。」
「そうなんですか。」

そうやん。自宅に送られてくるって、呑気に言うてる場合と違うやん。警察から封筒が届いたら、サエコが勝手に開けて中身を確認する可能性があるし、開けずに俺に手渡されたとしても、中身は何なのかっていう話になる。名神なら、まだ言い訳が思い浮かばないでもないけど、阪和自動車道でオービスに引っかかったって、どうやって説明したらええの。

「どうしますか?帰りますか?」
「いや、大丈夫。大丈夫。」
「ほんとですか?」
「もう諦めた。忘れるわ。」

ケイコは光ったのを見ていないって言ってるから、それを信じることにした。そういえば和臣が、光るだけで何も写さないダミーのオービスがあるって言っていた。たぶん、さっきのはダミーのやつだ。そうだ、そうに違いない。

「景色を楽しみながら、ゆっくり行こうな。」
「はい、そうしましょう。」
「ほら、海が見えるで。綺麗やな。」
「そうですね。綺麗ですね。」

しばらくは二人のテンションが下がり気味で、無言の時間が続いたりもしたけど、何度かパーキングエリアにも寄って、白浜へと辿り着いた。雄琴にもヨットハーバーがあって、マリンスポーツを楽しむような人たちの姿を見かけることがあるけど、やっぱり本物の海は違う。潮風が気持ちいい。

「久しぶり、懐かしいです。」
「アドベンチャーワールド、行く?」
「いえ、もう少し浜辺にいたいです。」
「そっか、分かった。」

ケイコは、高校を卒業してからプリプリに入店するまで間、白浜のアドベンチャーワールドで働いていたのは、彼女の履歴書に書いてあった。動物好きだから飼育員として働こうっていう単純な発想だったらしい。まぁ、風俗が好きだから風俗業界で働こうって思った俺と、ほとんど大差がない。

「これが、私たちの初めての旅行ですね。」
「そのうち、もっとビーチらしいリゾートにも行こな。」
「本当ですか?」
「うん、どこか行きたいとこ、ある?」
「沖縄とか行ってみたいです。」

ハワイとか、モルディブみたいな海外ではなく、国内を挙げるところがまた、ケイコらしくて可愛い。一般的な二十代の女の子と比べれば圧倒的に高収入なはずなんだけど、アクセサリーとかブランド物とか、収入に見合った贅沢をしたことがないようだ。

「お腹がすきましたね。」
「そやな。ランチに行こか。」
「急がないと、お昼の時間が終わっちゃうかも。」
「ほんまや、急いで行こ。」
「あんまり急いだら、また光りますよ。」
「ちょっともう、余計なことを思い出させんといてよ。」


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