この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百三十八話「ベンツ」

time 2017/06/01

第二百三十八話「ベンツ」

さすがゴールデンウィークだけあって、滋賀県に向かう道路も混んでいる。俺が雄琴に向かう十時前後が、一番の渋滞なのかもしれない。普段はあまり運転をしない人たちが多いから、下手くそな運転が目立つし、いつもの通勤の倍以上の時間がかかるから、イライラが募る。俺は時速二十キロで走るためにベンツを買ったんとちゃうねん。

「渋滞しんどいわ。みんな、どこに遊びに行くんやろ。」
「おはようございます、社長。」
「うん、おはよう。浩平ちゃん。」
「琵琶湖ですかね。」
「わざわざゴールデンウィークに琵琶湖に行く?」
「それは、そういう人も居るでしょ。」

たしかに、わざわざゴールデンウィークに雄琴まで僅か二時間くらいの楽しみのために来ていただけるお客様がいるんだから、休日の使い方は、人それぞれだ。朝からサエコが「うちはパパの都合で、ゴールデンウィークは無いの。」と娘たちに向かって、わざと俺に聞こえるように嫌味っぽく言ってたし、みんな人それぞれの事情ってものがあるんだろう。

「どうですか、新車の乗り心地は?」
「めっちゃ良いで。重厚感が違うわ。」
「家族で乗っても安心ですね。」
「え?あ、そうやんな。」
「あ、もう、家族旅行のこと、忘れてたでしょ。」

こんな馬鹿みたいな話をしながらも、俺と浩平の目は店の隅々まで行き届いていて、少しでも不審に思えることがあれば飛んで行って対応するし、電話が鳴ればスグに受話器を取って応対する。ゴールデンウィークも二日、三日と経つと、時間を持て余した世の男性たちが、折角だから雄琴にでも行こうって話になるのか、次々と予約の電話が入ってくる。

「やっぱり、ケイコさんの評判が良いですね。」
「さっきのお客様?」
「はい、完全にベタ褒めでしたよ。大満足って。」
「嬉しいな。本人にも教えてあげてな。」
「はい、もちろん。」

俺から直接、ケイコちゃんに伝えようかとも思ったけど、社長が自ら三階まで上がっていって、「お客様が褒めてたよ、良かったね。」なんて言うのは、なんだか変な気がしたから止めておいた。ただ、今晩のケイコちゃんの送りは俺がするからと浩平に言って、時計を見ながら時間を調整して、帰り支度をした。

「このクルマの助手席に人を乗せるの、初めてやで。」
「え、私が一番で良いんですか?」
「ええよ、もちろん。」
「新車っていう香りがしますね。」
「まだ、買って四日目やからな。」
「そうですよね、ありがとうございます!」
「ところで、旦那さんは、どんな感じなん?」

なんだかワザとらしく明るく振る舞うケイコちゃんの様子が不憫に思えて、敢えて避けていた質問をぶつけてみた。ソープの社長としては、あまり女の子のプライベートに踏み込まない方が良いのは分かっているけど、誰にも相談できない状態のまま、ひとりで悩んでいるとしたら可哀想だから。

「アザが残るような暴力は、しなくなりました。」
「良かったやん。」
「でも、枕に顔を押し付けたりとか。」
「なにそれ?証拠が残らんような暴力をしてるってこと?」
「そうですね、ずっと怒鳴られて正座させられてますし。」

自分から切り出した話題とはいえ、想像以上に深刻な内容に驚いた。勝手に多額の借金をしておいて、嫁にケツを拭かせてるのにも関わらず、ストレスの捌け口として暴力を振るってるんだから、ほんまに最低で最悪な旦那やん。そろそろ彼女の自宅に着くけど、このまま帰していいものだろうか。

「もう少し、一緒に居てもらえませんか?」
「え?」
「帰るのが怖いんです。」
「そやろな。」
「次の信号を左に曲がってもらえますか?」

ケイコちゃんの自宅は、ここを真っ直ぐに行ったところなんだけど、言われるがままに左に折れた。その後も、何回か彼女に言われた通りに進んだら、街灯がひとつだけしかなくて、ほぼ真っ暗な場所に着いた。左側は、林というか森というか、木々が生い茂っている。ヘッドライトを消すと、街灯にたかる虫以外には何も見えない。

「ここなら、旦那に見つからないと思います。」
「まぁ、そうやろな。」

この状況で、別の話題で盛り上がることは出来そうにもないから、やっぱり旦那との間で起こっていることについて話を続けた。しばらくすると、ケイコちゃんが泣いているのか、寝ているのか、息遣いだけは聞こえるけど何の返答もしなくなったから、少し顔を近づけて様子を確認しようとしたら、そのまま自然とキスをしてしまった。すぐに離れれば良いものを、だんだんと口づけが激しくなり、勢い余って服の裾から手を忍ばせて、さらに勢い余ってスカートの裾をまくり上げて、さらにさらに勢い余って、結局、最後までやった。

「お客様に褒められたご褒美ですか?」
「いや、そういうわけとちゃうけど。」
「ありがとうございます。」


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