この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百三十六話「ブレイクショット」

time 2017/05/30

第二百三十六話「ブレイクショット」

相変わらず、すすきの店の担当を鮫島部長の部下が引き継いだことに不満を持つ石川部長が、頻繁に電話を掛けてきて、俺の貴重な時間を奪う。ただ、「ピチピチプレミアムの利益って、グループ全体の利益の二割を超えてますよ。」って言われて、たしかにそうかもしれないと思って、ちょっと嬉しかった。石川部長としては、それだけグループに貢献している人が、もっと発言力を持つべきだっていう論調なんだけど、そんなことは俺には関係のない話だ。

「もうすぐ、俺のベンツが来るで。」
「来週の火曜でしたっけ?」
「そう、ゴールデンウィーク前に納車してくれるって。」
「どこか出掛けるんですか?」
「いや、俺は仕事やから大型連休とか関係ないけど。」
「そうですよね、休まれたら困ります。」

担当する店の営業が好調なら、俺が受け取れる報酬も増える。グループ幹部として出資した札幌と道後温泉に関しては、まだまだ配当が受け取れるような状況ではないけど、プレミアムからは社長としての給料、幹部としての歩合給、そして出資者としての配当が入ってくるから、なんだかんだで俺の月々の手取りは五十パーセントほど増えた。だから、ちょっとくらい使っても良いだろうってことで、ベンツを買うことにした。これもまた、単純な発想だと、我ながら思う。

「明日は俺、完全に休むからな。」
「はい。」
「家族サービスやねん。」
「そうですか。」

ただ近所のビリヤード場に出掛けるだけのことなんだけど、日を追うごとに楽しみになってきている。仕事中なのに、頭のなかでは球を突くイメージトレーニングをしていて、難しいショットを綺麗に決めた俺がサエコに近づいて行ってハイタッチをするところまでシミュレーションが出来ている。そのあと、娘ふたりが駆け寄って来て、「パパ、すごい!」なんて言ってくれるかもしれない。

「あ、キョウカさん。」
「はい、社長。」
「あの新しいアイコさんって、いけそう?」
「ゴールデンウィークに間に合いますよ。」
「じゃあ、ミワさんは月末で辞めてもらうで。」
「分かりました。」

女の子のレベルを引き上げるために、継続的に女の子の入れ替えを進めている。ミワさんは容姿端麗で外見は申し分ない女の子で、年明け早々から働いてくれている。入店当初はナンバーワンを狙えるのではないかと期待していた子なんだけど、いつの間にか手を抜くことを覚えてしまったようで、お客様からのクレームが多発している。ちょうど良いタイミングで、アイコさんっていうミワさんと似たタイプの女の子が入ってきたから、ここが切り時だと判断した。

「すぐに他店で働くでしょうね。」
「そやろな。」
「はい。」
「うちとは相性が悪いねんから仕方ないって。」
「そうですね。」

浩平でさえ、まだ十分に理解が出来ていないようだ。正直、ミワさんクラスの女の子を、あっさりと手放せる店なんて、雄琴のソープランドのなかでも、うちだけかもしれない。大衆店であればナンバーワンさえ狙えるような子で、同じ価格帯の高級店であっても、容姿の良さだけで確保しておこうとするだろう。こういう中途半端な態度が、店を腐らせてしまうねん。

「もっと高いレベルを目指すからな、浩平。」
「はい、分かってます。」
「うちが雄琴の代名詞になるまで、突き進むで。」

これまでの五か月くらいは、あくまでブレイクショットに過ぎない。今の状況に満足して手を抜けば、思わぬミスショットを連発する恐れがある。ひとつひとつ丁寧に、広い視野を保ちながら、プレイを続けなければならない。下手くそなところを見せて、娘たちの期待を裏切るようなことになれば恥ずかしい。アカン、もう明日のビリヤードのことで頭がいっぱいで、仕事に集中できない。

「俺、今日はもう帰るわ。」
「お疲れさまでした。」
「うん、お疲れ。」
「家族サービス、頑張ってください!」
「おう、絶対にカッコええとこ見せたんねん!」


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