この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百三十五話「単純」

time 2017/05/29

第二百三十五話「単純」

名門私立小学校に入学したカオルコが、二年生になった。完全にサエコに任せっきりだから、特に感慨深いものもないけど、すくすくと成長しているようだ。サエコは、子育てと言うよりも、名門校の母親同士の付き合いに疲れていて、「なんでランチで、フレンチとかイタリアンとか、行かなあかんの?牛丼でええんちゃうの?」などと愚痴っている。

「うんうん、いつもありがとう。」
「心にもないこと、言わんといて。」
「いや、感謝してるって。」
「態度で示せ、態度で!」
「あ、うん。」

そういえば、ミカとの付き合いを始めた頃から、家族で出掛けるということが無くなった。もちろん、子供の世話をしなければならないこともあるし、俺がソープランドの開業のために奔走していたということもあるけど、それにしても家族での外出が一切無いっていうのも、なんとなく変な気がする。

「今度の休みの日、ビリヤード行こか?」
「え?ひとりで行ってきたら?」
「みんなで行こうや。」
「まぁ、ええけど。」
「よし、ほな、そうしよ。」

なんとなくダメ元で聞いてみたけど、一応は了承してもらえたから良かった。もう少しサクラコが大きくなったら遊園地とかに遊びに行くのも楽しいけど、今はまだサエコが疲れるだけの外出になってしまうから、お手軽なビリヤードの方が良いと思った。自宅から歩いても行けるようなところにあるから、長距離を運転する必要がなくて、俺も疲れなくて済む。

「ほな、今度の日曜日な。」
「うん。いってらっしゃい。」

それにしてもサエコは単純だ。ビリヤードに行く約束をしただけで、あんなに機嫌が良くなるなら、もっと前から一緒に行っておけば良かった。俺も最近、めっきり玉突きから遠ざかっているから、かなり楽しみなんだけど。あんまり腕が落ちてたら恥をかくから、家族で行く前に、ひとりで練習しておいた方が良いかな、などと考えていたら、あっという間に雄琴に着いた。

「おはようございます。」
「あ、社長、おはようございます。」
「今日も張り切っていこう。」
「なんか良いことでもあったんですか?」
「え?なんで?」
「いつもより元気そうなんで。」

サエコだけじゃなく、俺も単純らしい。やっぱりプライベートが上手くいってる方が、仕事にも力が入るのは当然だ。今日も平日にもかかわらず、夕方頃には満室になる時間帯もあって、ゴールデンウィークあたりの予約の電話も多くて、慌ただしい一日になったけど、浩平と分担しながら滞りなく対応することが出来た。

「ケイコちゃん、復帰後は調子が良いですね。」
「そうやな。」
「ソープに慣れてきたんでしょうね。」
「そうなんかな。」
「もっともっと稼がせてもらいましょう。」
「そうなったらええけど。」

たしかに、旦那に殴られて長期休暇をとって以来、ケイコちゃんの働きぶりが一層良くなった。現実的には、プライベートが上手くいってないから、仕事に夢中で打ち込んで私生活を忘れたいという気持ちなんだと思うけど、絶好調のうちの店のなかでも別格に凄い成績を上げている。

「社長、ケイコさんの送り、お願いできますか?」
「うん、そのまま帰るで。」
「はい、そうしてください。」

顔のアザの件でケイコちゃんと話したとき、ちょっと私生活に踏み込み過ぎてしまったから、あれ以来、できるだけ余計なことを言わないように心掛けている。下手なことを言ってナンバーワンを失うのが怖いから、できるだけケイコちゃんのプライベートに関する話題を避けている。

「もしかしたら、この車でケイコちゃんを送るのも最後かも。」
「え?社長、店を辞めるんですか?」
「いやいや、そんなアホな。」
「じゃあ、どうして最後なんですか?」
「車を買い替えるねん。ベンツに。」
「ベンツですか?すごいですね。」

俺がベンツを買えるのもプレミアムが好調なのが理由だから、「ケイコちゃんのおかげやで。」と言いそうになったけど、こういう些細な言葉によって女の子が勘違いして態度を急変させることも多々あるから、喉元まで出てきた言葉を飲み込んだ。この適度な距離感を保つことが、風俗店の経営者に求められる能力のひとつだ。

「ほな、また明日。」
「はい社長、送っていただいて、ありがとうございます。」
「うん、お疲れ様。」

いつもなら、仕事を終えて自宅に戻るのが憂鬱に感じるんだけど、今日は違う。特に変化はないだろうけど、明るい気持ちで帰宅できるって、ええことやなぁ。


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