この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百三十話「腹心」

time 2017/05/22

第二百三十話「腹心」

あれから三日しか経っていないのに、早くもクリちゃんが外され、代わりに鮫島部長の部下の与沢っていうやつが北海道を担当することになった。ピチピチマダムでマネージャーをしていたやつらしいから、顔を見れば分かるとは思うけど、たぶん何か話をしたということは無いと思う。

「なぁ、与沢って知ってる?」
「マダムのでっすか?」
「そうそう。」
「めっちゃ良い奴ですっよ。」
「仕事は、出来んの?」
「前田さんより出来まっすね。」

最近、和臣と前田の関係が上手くいってなくて、和臣と話すたびにこんな感じで前田の名前が出てくる。それはまぁ良いとして、和臣によると与沢っていうやつは、鮫島部長が腹心として可愛がっているスタッフらしい。そんな大切にしている部下を、すすきの店なんかに送り込んで大丈夫なんかな。

「俺たち、雄琴で良かったな。」
「どうしたんですか、急に?」
「浩平、お前、明日から北海道って言われたら行く?」
「俺、札幌出身だから、アリと言えばアリですね。」
「あ、そうやったっけ?」

俺自身は、会長からの命令なら、北海道だろうが、四国だろうが、九州だろうが、沖縄だろうが、いや、それこそ海外だろうが、どこへでも飛んでいく。いや、海外は無理があるから、せいぜい沖縄くらいまでなら飛んでいく。いや、沖縄も遠すぎるから、せいぜい九州、いや関西くらいまでなら、いつでも飛んでいく。

この前、会長と話をした時には、さらにグループの店舗を日本全土に展開していくという話をしていた。京都以外での勝率が半々なのに、全く懲りていないどころか、さらに次の手を打とうとしている会長は、やっぱり凄い。だから、現段階では雄琴に注力しなければならないけど、その後のことは予測不可能で、あながち九州あたりの可能性は否定できない。

「ほな、帰るわ。」
「あ、社長。」
「どないしたん?まだ仕事あんの?」
「いや、ケイコさんの送りをお願いできますか?」
「うん、ええよ。」

うちの店で働いている女の子の半分以上は、京都辺りから通っている。だから、営業終了後には女の子たちを駅まで送ってあげる必要がある。基本的には店の送迎車両を使っているから、俺が送迎係をすることは珍しいけど、タイミングさえ合えば、別に断る理由も無い。

「すみません、社長。お願いします。」
「ちょっと荷物が多いけど、ゴメンな。」
「いえ、大丈夫です。」

ケイコちゃんは、ナンバーワンになっても、横柄な態度をとるわけでもなく、派手なアクセサリーをつけるわけでもなく、ソープランドで働く以前のままの雰囲気だ。

「あっという間に、借金を返せそうやね。」
「どうでしょうね。」
「今のままで頑張れば、大丈夫と思うけど。」
「はい、たぶん。」

どうもケイコちゃんの歯切れが悪い。おそらく、旦那に新たな借金が見つかったか、あるいは、ケイコちゃんのソープでの稼ぎを目当てにして豪遊を始めたかのどちらかだ。俺としては、うちの店で出来るだけ長く働いてくれるに越したことはないし、家庭内の問題に立ち入るわけにもいかないから、ケイコちゃんの様子をうかがいながら、たまに励ましてあげることしか出来ない。

「はい、着いたで。」
「ありがとうございました。」
「明日も頑張ってな。」
「あ、明日は休みです。」
「そうなんや。じゃあ、ゆっくり休んでな。」

以前にプリプリで働いていた頃には、大人しくて素直な女の子っていう印象しかなかったけど、ソープで働くようになって頻繁に話すようになると、彼女の心の綺麗さを感じる。

「帰ったで。」
「あ、おかえり。帰って来たん?」
「そら自宅やねんから、帰って来るわ。」
「明日も朝、早いの?」
「あ、明日は休みやねん。」
「そうなんや。ふーん。」

一応、俺がこの家の主やねんから、もうちょっと優しくしてほしい。それにしても、ふーんって何やねん、ふーんって。

「ゆっくり休んでな、みたいなこと言われへんの?」
「私は子育てで、休みなんかないもん。」
「そ、そやな。ごめんなさい。」


sponsored link

down

コメントする