この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百二十九話「一勝一敗一分け」

time 2017/05/19

第二百二十九話「一勝一敗一分け」

 札幌の店を担当しているクリちゃんが、いよいよダメらしい。会長からは、長期戦を覚悟するから、しっかりと地盤を固められるように頑張れと言われているらしいけど、どうやら長期戦に耐えられるような精神状態ではないらしい。まぁ、石川部長から聞いた話だから、あんまりアテにはならないし、自分が担当している道後温泉の店は大丈夫なのかと逆に心配してしまう。

「内容が伴ってないのは、分かってんな?」
「はい、もちろんです、会長。」
「風俗は、ソフト産業やからな。」
「はい、俺もそう思います。」
「気を緩めんなよ、田附。」

 ピチピチグループの京都の外での戦績は、今のところ、一勝一敗一分け。もちろん、勝っているのは俺の担当している雄琴のソープで、負けてるのが札幌だ。これはもう完敗と言って良い。道後温泉に関しては、大きな赤字にはならずに、少し軌道に乗り始めたところのようだから、引き分けとしておこう。

「田附部長、ひとり紹介したい女の子がいます。」
「うちで働いてくれる子ですか?」
「直接、話をしてもらえますか?」
「ありがとうございます。鮫島部長。」

 グループの幹部が日本各地に散らばっている状態のなかで、地元の京都を守る係に徹している鮫島部長は、ほとんど雄琴にも顔を見せることがない。でも、たまにこうして女の子を紹介してくれたり、プリプリのことで気がかりなことがあると連絡をくれたり、俺のことも気にかけてくれているようだ。

「あと、田附部長。」
「なんですか?」
「札幌が、いよいよヤバいらしいですね。」
「そうなんですか?」
「栗橋専務、精神的にアカンみたいです。」

 石川部長からの情報と同じだけど、鮫島部長の方が信用できる。俺がピチピチグループに復帰することが出来たのもクリちゃんのおかげだし、何とか助けてあげたいけど、ちょっとタイミングが悪すぎる。俺は俺で、やらなければならないことが山のようにあるから。

「もしかしたら俺が、札幌を担当するかもしれないです。」
「鮫島部長が?」
「はい、会長からは考えておくように言われました。」
「そうですか。」

 クリちゃんは、しばらく仕事を離れて静養した方が良いような気がする。俺も、シズエと別れた時には、精神的なバランスを崩して、入院までしているから想像がつく。自分では頑張ってるつもりなのに周りの状況がどんどん悪くなってくると、恐怖とか孤独とかネガティブな感情ばかりが頭のなかを駆け巡る。まぁ、今の俺は、頭のなかをハッピーが跳ね回ってるけどな。

「すみません、ダイシャチョウお願いできますか?」
「夕方からでも、ええかな?」
「じゃあ、それまではダイシャチョウ抜きでやっておきます。」 
「うん、頼むわ。」

 鮫島部長が「スタッフに大社長って呼ばせてるんですか?」と、称賛に近い驚きの表情で聞いてきたけど、ただの“練習台をする社長”のことだと説明すると、心の底から呆れた表情をされた。鮫島部長なら自分の店のスタッフに「大社長」って呼ばせかねないけど、俺はもっとアットホームな店が理想だから、ご期待には添えない。

「会長、ありがとうございました。」
「女の子の確保やぞ。しっかりせえよ。」
「分かってます。」

「鮫島部長も、ありがとうございました。」
「女の子の面接ができそうな日を、連絡してください。」
「はい、連絡します。」

 調子が良いときなら、会長と会ってもビビらなくて良い。出勤している女の子の顔ぶれを見て、すぐに「内容が伴ってない」と言って女の子のレベルが十分ではないことを見抜いたのは流石だけど、そんなことは俺も良く理解している。だから、ちゃんと策を打ってあるし、少しずつ成果も出てきている。雄琴のことは、安心してもらって大丈夫やわ。

「ダイシャチョウ、そろそろ。」
「はいはい、すぐに行くから。」
「お願いします。」
「よし、新人ちゃんのために、ひと肌脱ぐで!」


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