この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百二十七話「サブプライム」

time 2017/05/17

第二百二十七話「サブプライム」

 お客様がいっぱい来てくれるのは、もちろん嬉しいことなんだけど、改善すべき点がいくつも見つかった。褒めるところは褒めて、注意すべきところは注意するというサジ加減が難しいんだけど、とにかく話すべきことを忘れないうちに、浩平とキョウカさんには伝えておかなければならない。

「浩平、お疲れ!」
「お疲れさまでした、社長。」
「来客を出迎えてからの流れ、完璧やったやん。」
「初日にしては、良く出来た方ですね。」
「あれでも不満なん?」
「もっと落ち着いた雰囲気を出したいですね。」

 さすがは、日本一と言われるフォーナイトで店長をしていた男だけのことはある。初日だから仕方がないとは思いつつも、俺もやっぱり似たようなことを感じていた。どうやら男のスタッフに関しては、浩平に任せておけば、少しずつ軌道修正をしていって、理想的な状態にしてくれそうだ。

「キョウカさん、お疲れさま。」
「社長、お疲れさまです。」
「今日は朝から大変やったな。」
「そうですね。ケイコちゃんが来てくれて助かりました。」
「ホンマやな。」
「お客様からの反応は、どうでしたか?」

 ピチピチプレミアムでは、女の子のサービスを終えたお客様は、待合室の一角に設置したバーカウンターに座っていただく。お客様にとっては、高揚した気持ちを少し落ち着けつつも、高級な遊びを楽しんだことへの満足感を改めて感じる時間になる。一方、俺たち店側の人間にとっては、様々な意見を聞く重要な時間となる。

 今日の俺は、お客様からの生の声を聞きたかったから、出来る限りバーカウンターに座った全てのお客様と話をするように心掛けた。どうしても他の用事のために話せなかったお客様が数名いたけど、それでもたぶん二名、もしくは三名くらい。厳しい意見をしてくれる人もいれば、手放しで褒めてくれる人もいたけど、どうしても気がかりな意見が、ひとつあった。 

「あのな、ヨウコさんやねんけど。」
「今日の出勤では唯一の経験者、頑張ってましたね。」
「いや、ちょっとクレームがあってな。」
「そうなんですか。どういうクレームですか?」
「心がこもってないって。」
「そうですか。」
「本人は、どんな感じやった?」
「私には、明るく元気に接してくれてますけど。」

 ヨウコさんという女の子は、つい最近まで雄琴の別のソープランドで働いていて、スカウトメールで俺とやりとりして採用した子だ。もちろん、技術的な面ではキョウカさんにチェックしてもらったし、悪い噂がないかどうか浩平にも確認してもらって、慎重に採用したつもりだったけど、どうもお客様からの反応が良くない。

「あ、そういえば。」
「ん?」
「高級店って聞いて来たのにって言ってました。」 
「なんのこと?」
「あの九十分のコースの件です。」
「あれのせいで、うちで働くのに不満があるってこと?」
「たぶん、そうだと思うんですけど。」

 今年の九月、リーマンブラザーズっていうアメリカの銀行が破綻した。サブプライム問題とか言うらしいけど、俺はあんまり興味が無いし、自分には関係ないことだと思っていたのに、やたらと日本経済が冷え込んでいるというニュースが流れはじめたと思ったら、あっという間に京都の風俗の売り上げにも影響が出始めた。

 その結果、超高級店としてスタートする予定だったピチピチプレミアムでも、百二十分で六万円というコースの下に、九十分で四万五千円というコースを作らざるを得なかった。とはいえ、ヨウコさんに関しては、この件とは関係がないような気がする。

「いや、お客様のクレームは、ちょっと違うねん。」
「どういうクレームですか?」
「他店で働いてたことを馬鹿正直に話してたらしいねん。」
「え?ほんとですか?」
「うん。本人が言わんかったら、お客様は知るわけない話やし。」
「たしかに、そうですね。」

 ヨウコさんが以前に勤めていたのは、雄琴の中でも最低ランクのいわゆる大衆店で、うちで六万円のコースが、二万円くらいで提供されている。もちろん、店の豪華さや、設備の良さなど、女の子以外の部分で圧倒的な差があるからこそ、超高級店としての値段設定をしているんだけど、お客様の立場から見れば、器が立派になっただけで中身は同じなのに値段が三倍になるのかっていう不満が出てくるのは当然だとも思う。

「ちょっとヨウコさんと話をしてみますね。」
「うん、ありがとう。頼むわ。」
「はい、社長。お疲れさまでした。」
「キョウカさん、ホンマにお疲れ。明日もよろしく。」

 長い長い一日も、これでやっと終わり。でも、お客様からの意見を聞きながら、改善することは、いっぱいある。今日はしっかり寝て、また明日からも頑張ろ。


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