この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百二十四話「うちの田附さん」

time 2017/05/12

第二百二十四話「うちの田附さん」

 ケイコちゃんとの話し合いの結果、プリプリでは働かず、ピチピチプレミアムの在籍として自宅から雄琴に通って、キョウカさんの講習を受けることになった。本人曰く、一か月とは言えプリプリで働いたら、ソープランドで働く覚悟が揺らぎそうだから、プリプリでは働かないことにしたらしい。

 キョウカさんの講習は、女の子たちからの評判が良くて、みんな楽しみながら技術を身に付けているようだ。俺も一応、ダイシャチョウとして活躍している。

「やっぱりベージュのやつが来てるやんか。」
「前よりも白いですけどね。」
「そんなん評価でけへんわ。」
「私は、しっかり伝えてるんですけど。」
「脇田さん、もうええから、カタログを全部、俺に渡してください。」

 オープンまで三週間だと言うのに、まだこんなことをやっているのかと思うと、情けなくなってきた。女の子たちだけではなく、男のスタッフの研修も進んでいて、お客様が来店されてから帰られるまでのシミュレーションを、何度も何度も繰り返している。俺のせいでオープンを遅らせるなんて、ありえへん。浩平とキョウカさんに申し訳ない。

「ただいま。」
「おかえり、パパ!パパ!」
「サクラコただいま。カオルコもただいま。」
「これ、お土産?お土産?」

 脇田のオッサンから取り上げてきたカタログを抱えて、自宅に帰ってきた。たまたま高島屋の紙袋が仮オフィスにあったから、それにカタログを入れてきた。言われてみれば確かに、お土産っぽいな。でも違うねん、ごめんな、我が娘たちよ。

「えらい大きい荷物を持って、どうしたん?」
「あ、サエコ。いや、カタログやねん。」
「カタログ?何の?」
「ソファーとかテーブルのやつ。」
「家具屋でも始めんの?」
「なんでやねん!」

 現場監督が役に立たなくて仕上げの段階で作業が止まっていることをサエコに話すと、「私も一緒に見させて。」と言って、カタログを開きながらメモを取り始めた。たぶん、サエコも同じように、俺たちの夫婦仲が悪くなっていることを気にしていたんだろう。あと、こういうデザインとかファッションに関しては、サエコのセンスは抜群で、本人も自信がある分野なんだと思う。

「店全体のイメージが分からんけど、こんな感じかな。」
「どれどれ見せて。」
「うん。まず、ソファーは、これ。」
「ええやん。シンプルやけど、高級感があるな。」
「そうやろ。それからな・・・」

 手元のメモには、カタログのページ数と型番が書かれていて、それを見ながら熱心に説明してくれる。ふたりで横に並んでカタログを見ている距離感が丁度いい。面と向かって話をするより、一緒にカタログを覗き込んでいる方が、今の俺たちにとっては良いのかもしれない。

 サエコの方は、そんなことよりカタログに夢中で、俺に説明しながら確認作業をしているようで、「やっぱり、コレはコレに変えた方がええな。」とか言いながら、メモを書き直したりしている。俺のアイデアも少し入れてもらったけど、ほとんどサエコが決めてしまった。なんか、あっという間の出来事だった。

「これ、ソファーとか、調度品とかのリストやから。」
「え、田附さんが書いてくれたんですか?」
「そうそう、うちの田附さんが。」
「はぁ?」
「まぁええから、その通りに揃えてや。間違ったら怖いで。」

 しっかりと紙に書いて渡したことで、脇田のオッサンはその後、ほぼ完ぺきに作業をこなした。初めからこうすれば良かったのかとも後悔したけど、とりあえず内装も調度品も全て、見事に揃ったから結果的には問題ない。ぎりぎりまで間に合うかどうか不安だった待合室のテーブルも、オープンの三日前に搬入されてきて、スタッフ全員で拍手をして迎え入れた。

「社長、もう一回、やりましょう。」
「浩平、もう俺、疲れたから、また明日で。」
「あきませんよ。今からです。」
「スパルタやな、ここの店長は。」

 今回、店をオープンするに当たって、顧客の管理システムを最新のものにした。プリプリでも顧客名簿をパソコンで管理するというシステムを使っていたけど、今回導入したものでは、予約や問い合わせを受け付ける固定電話と、顧客管理システムが連動していて、電話がかかってくると同時にナンバーディスプレイによって相手先を特定して、パソコン上に顧客情報が表示される仕組みになった。

 新しいシステムって便利なんだけど、何かと覚えることが多くて、最初のうちは操作が難しい。これまで他に用事があると言って逃げて来たけど、さすがに浩平もしびれを切らして、スパルタ教育に方針を変更したらしい。

「三日後にはオープンですよ!」
「まだ三日もあるやん。楽勝やって。」

「あと二日ですよ。ちゃんと覚えてください。」
「何となく感覚は分かってんねんで。」

「明日ですよ、明日。大丈夫ですか?」
「俺は短期集中型の男やねん。」
「そんなこと、どうでも良いです。もう一回、やってください。」

 こうして本当にギリギリまで慌ただしく頑張って、なんとかオープン当日を迎えた。浩平からはシステムの使い方を覚えていないことをチクチク言われているけど、俺は本番に強いタイプの男やから、たぶん大丈夫や。

 さぁ、明日は張り切って、お客様を出迎えるで。


sponsored link

down

コメントする