この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百二十三話「ベージュ」

time 2017/05/11

第二百二十三話「ベージュ」

 ダイシャチョウの朝は早い。ソープの内装工事を発注している建設会社の現場監督と朝イチで打ち合わせをするために、七時過ぎに自宅を出た。山科のあたりが混んでいなければ、だいたい四十分弱で雄琴に着くから、自宅からも通えなくもない距離だ。とはいえ、やっぱり京都と雄琴を頻繁に往復するのは疲れる。

「あ、おはようございます。」
「おはようございます、社長。脇田です。」
「あと十分くらいで着きますから。」
「分かりました。お待ちしてます。」

 この脇田っていうオッサンが、現場監督なんだけど、いまいち俺が望んでいることが上手く伝わらなくて、無駄に打ち合わせの回数ばかりが増えて、困っている。そのくせ、時間にだけは厳しくて、毎回、約束の三十分くらい前には確認の電話が入るから、面倒くさい。別に時間厳守である必要はないから、仕事の方をしっかりやって欲しい。

「これ、もっと真っ白なやつ、無いんですか?」
「それはベージュですから。」
「いやいや、そうじゃなくて、白は無いんですか?」
「ありますよ。」
「俺、前にも真っ白のやつって言いませんでしたっけ?」
「ベージュは白と違いますもんね。」

 なんやろ、全く噛み合えへん。例えば、うちの和臣となら五分くらいで済みそうな話が、脇田のオッサンとだと十倍くらいかかる。発注者側の俺だけでなく、作業をしている現場の人たちにとっても時間の無駄だ。もうちょっとマシな現場監督に来て欲しいわ。

「はい、もしもし、田附です。」
「どや?」
「今、脇田さんと打ち合わせしてます。」
「順調なんか?」
「はい、予定通りに進んでます。」

 会長に対しては、いちいち現場の細かな問題について報告してられない。下手に愚痴を言うと、いきなり雄琴まで飛んで来て、次々と新しい指示を出して現場が混乱させるか、現場監督さえコントロールできないのかと俺が怒られるかのどちらかになる。出来れば、どちらも避けたい。だから、いわゆる中間管理職の俺は、この脇田のオッサンを動かして、オープンに間に合わせるしかない。

「白いベージュということで、業者に伝えましたんで。」
「いや、白ですよ。ベージュじゃなくて良いんで。」
「あ、そうですね。そう伝えました。」
「ほんまに?白いベージュって伝えたんとちゃうの?」

 キョウカさんが女の子、浩平が男のスタッフの指導を担当して、しっかりとオープンに間に合わせてくれるはずだから、俺は俺の仕事をするしかない。本当は、もっと外に出て、新しい女の子の発掘をしたいんだけど、工事の遅れは致命的な損害になるから、まずは脇田のオッサンとの打ち合わせを優先せざるをえない。

「田附社長、お元気ですか?」
「ああ、石川部長。」
「そんな冷たい対応しないでくださいよ。」
「前から、こんな感じですけど。」

 石川部長って、俺のことをカメラで監視していて、忙しい時を見計らって電話を掛けて来てるんじゃないだろうか。どうせ急ぎの用件でもないし、打ち合わせの最中だし、「今、ちょっと話してる時間ないから。」と言って、電話を切った。

 いや、今日の俺は朝から着信があるたびに、もしかしたらケイコちゃんからの電話かもしれないと思ってワクワクしながら、携帯電話のディスプレイを見てんねん。それなのに、朝から脇田のオッサン、会長、そして石川部長って、男からしか電話が掛かってけえへんやん。

「あ、もしもし。」
「今晩、帰って来てもご飯ないから。」
「そうなんや。分かった。」

 いやいや、サエコからの電話も要らんねん。今のままの状態は良くないから、もう少しサエコとの仲が良くなるようにしたいとは思ってるけど、そんなに急ぎの問題でもない。そんなことより頼むからケイコちゃん、電話を掛けて来て。

「もしもし、店長ですか。」
「うん、店長ちゃうけど、田附です。」
「昨日はありがとうございました。」
「うん。」
「それで、あの私。」
「うん。」
「ソープランドで働くことにします。」
「そっか。分かった。」
「よろしくお願いします。」

 めっちゃドキドキしたけど、良い返事を貰えてよかった。あんまり俺がはしゃぎすぎると変に思われるから、平静を装って電話を切ったけど、めっちゃ嬉しいやん。ありがとう、ケイコちゃん。


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