この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百二十一話「二年半」

time 2017/05/09

第二百二十一話「二年半」

ダイシャチョウとしての俺の仕事は、服を脱がされて、身体を洗ってもらい、そしてマットプレイという基本的な流れで、お客様を演じることだ。気づかれないうちに、いつの間にかコンドームを付ける技術も、この時に教える。これまでに風俗で働いたことがある女の子でも、ソープランドでの勤務経験がなければ、口を使ってコンドームを付けたことなんてないから、この講習で覚えることになる。

「明日も三人なんで、よろしくお願いします。」
「うん、任せといて。」
「お疲れさまでした。」
「また明日な。お疲れさま。」

キョウカさんは、さすがフォーナイト出身者だけあって、見事なテクニックの持ち主だった。でも、俺が驚いたのは、技術というよりも仕事に対する考え方のようなものだ。高級ホテルのスタッフを指導するかのように、お客様と対峙する時に心掛けるべきことを、ゆっくり丁寧に女の子たちに伝えていた。もしかしたらキョウカさんは、ソープ嬢というよりもソープの講習員の方が、天職なのかもしれない。

もう車を運転して帰るだけの気力がないから、今日は雄琴に借りたマンションの部屋で寝ようと思って、運転席に座ったとき、ちょうど電話が鳴った。ディスプレイには電話番号がそのまま表示されているから、登録していない番号だ。

「もしもし。」
「あ、店長。ご無沙汰しております。」
「えっと、どちらさまですか?」
「あの、ケイコです。」
「え?寿退店のケイコちゃん?」
「そうです!店長、ご無沙汰しております。」
「懐かしいやん。どないしたん?」

ケイコちゃんは、二年半前までプリプリで働いてくれていた女の子で、いつの間にか良い相手を見つけて寿退社することになったから、俺も送別会に参加したのを覚えている。でも、あれ以来、一切連絡がなかったから、きっと幸せに暮らしているんだろうなと思っていた。だから、俺に電話してきたということは、きっとあまり良くないことが起こったんだろうということはスグに分かった。

「もう一度、プリプリで働けませんか?」
「え、あ、もちろん、ええよ。」
「ほんとですか?」
「一回、会って話をしようか。」
「はい、お願いします。」
「いつが都合がええんかな?」
「今からでも構いませんけど。」
「ごめん、俺、今は滋賀県におるねん。」
「え?滋賀県?」

俺のことを店長って呼んで電話を掛けてくるくらいだから、ケイコちゃんは自分が辞めてから今までのことは何も知らない。だから、どうして俺が滋賀県なんかにいるのか、全く想像がつかないだろう。それよりも、こんな夜中に電話をかけてきて、また働きたいって言うだけならまだしも、いますぐにでも会いたいなんて、かなり追い込まれているという証だ。

「明日の夜中でも良いかな?」
「はい、店長のご都合が宜しければ、私は構いません。」
「じゃあ、明日の夜。」
「ありがとうございます。」
「久しぶりに会うから楽しみやわ。」

気落ちしているケイコちゃんを少しでも慰めようと思って「楽しみやわ。」って言ったわけじゃない。彼女が「もう一度、プリプリで働けませんか?」って聞いた瞬間、俺の頭のなかでは、プリプリで働いてもらうのではなく、雄琴のソープの方に連れてくることを思いついた。だからこそ、自然と心から「楽しみやわ。」という言葉が出た。

「キョウカさん、ごめん。」
「どうされましたか、社長。」
「明日の講習やねんけど、ちょっと早めに終わらせてほしいねん。」
「早めって?」
「夕方くらいに終わるようにできる?」
「分かりました、ダイシャチョウのために努力します。」
「ありがとう。」

もちろん講習の重要性は、俺も分かっている。とはいえ、プリプリではトップグループの次ぐらいには常に入っていたケイコちゃんの勧誘の方が、さらに重要度が高い。困った時に俺のことを思い出してくれたことも嬉しいし、ソープの戦力アップが見込めると思うと、さらに嬉しい。

よし、明日も頑張るで!


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