この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百二十話「ダイシャチョウ」

time 2017/05/08

第二百二十話「ダイシャチョウ」

 ソープランドの建物の改修工事は、やっと目に見えるところの作業が始まった。ここまで床下の配管をいじったり、鉄骨の強度を高める工事をしたり、素人の俺には何をしているのか分からない箇所ばかりだったから、やっと工事の進捗が確認できるようになって嬉しい。

「キョウカさん、そろそろ出番やで。」
「はい、任せておいてください。田附社長。」
「浩平とキョウカさんが居てくれて心強いわ。」
「俺も、社長と働くの楽しいです。」
「ありがとう、浩平。」

 赤木くんが紹介してくれる女の子たちで、店の看板になる女の子が揃って来たから、かなり気持ちが楽になってきた。俺の方もスカウトメールからの面接の流れに慣れて来て、全く話にならないような女の子に無駄な時間を使わなくても良いようになり、効率的な採用活動が出来ている。

 十二月の開店に向けて、俺たち三人はそれぞれの部屋を、雄琴で借りた。すでにキョウカさんと浩平は引っ越してきていて、来週からは店で働く女の子たちも、少しずつ集まってくる。俺はまだ京都と雄琴を行ったり来たりしている状態だけど、オープンが近づいたら、しばらくは雄琴から離れられないような気もする。

「社長、ほんとに仕事が好きですよね。」
「別に仕事やと思ってやってないからな。」
「そうなんですか。」
「女の子と楽しく話してるだけやもん。」
「まぁ、そうですけど。」

 たしかに浩平から見れば、休日を返上して動き回っている俺を見て、仕事が好きだと思うかもしれない。でも実際のところは、自宅に居ても全く寛げないから、仕方なく仕事の予定を詰め込んでいたりもする。

「パパ!パパ!」
「サクラコ、どないしたん?」
「パパ!パパ!」
「はいはい、パパですよ!」
「これ、はい!」

 このサクラコが産まれた日が、ちょうどミカと付き合い始めた日だったから、もう二歳になった。ちゃんと俺のことをパパって呼んでくれることが嬉しい。サクラコから手渡された折り紙を広げてみると、青いクレヨンで「パパ」って書いてあって、たぶん俺の似顔絵だと思われる何かが描かれている。

「次は、いつ出張なん?」
「何やねん、早よ出張に行って欲しいの?」
「そんなん言うてないし。」
「そういう感じで言うたやん。」
「私は、洗濯物とかの都合があるから聞いただけです。」
「はいはい、そうですか。」

 久しぶりにサエコが俺に向かって話しかけてくれたのに、完全に失敗した。折角、家族団らんの楽しい雰囲気だったのに、俺とサエコの様子を見て、リビングが静まり返ってしまった。会話の意味までは分かってないと思うけど、何となく空気を読んだカオルコが、そっと立ち上がって自分の部屋に消えていった。ああ、最悪や。

 前の結婚の時には、最終的に俺が精神的に参ってしまって、病院に入院しなければならない状態になってしまった。だから、あまり深刻に考えすぎるのは良くないと思うんだけど、やっぱり家族のこととなると楽観的に考えるのは難しい。いや、俺の浮気がそもそもの原因なんだから、単純に俺が悪いって話なんやけど。

「もしもーし。ダイシャチョウ、まだですか?」
「いや、俺なんか、大社長ちゃうし。」
「今、どちらですか?」
「もうすぐ雄琴に入るから、そのまま店に向かうわ!」
「分かりました。お待ちしております。」
「待たんでええから、先に始めといて!」

 家族の方はボロボロの状態だけど、仕事の方は順調だ。今日からは、いよいよキョウカさんによる女の子の講習が始まる。ソープランドの開業まで、残り一か月、ここからがホンマの勝負やで。

「もう、社長、遅いですよ!」
「え、俺のこと、待ってくれてたん?」
「いやいや、ダイシャチョウが居ないと始められないですから。」
「なに?俺は大社長とちゃうってば。」

 部屋には、キョウカさんともう一人、俺がスカウトメールで採用した元ヘルス嬢の女の子がいる。俺を待っている間に、随分と仲良くなったようで、ふたりで顔を見合わせてニコニコしている。

「はい、じゃあ、社長。」
「え?」
「早くしてください。」
「なにを?」
「練習台なんですから、早く脱いでください。」

 あ、やっと気づいた。キョウカさんが言ってた「ダイシャチョウ」って、台社長って意味やん。


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