この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百十八話「椿」

time 2017/05/04

第二百十八話「椿」

 何十人もの女の子と面接して、やっと一人を採用できるかどうかという状況なので、これはかなりの体力勝負だ。わざわざ滋賀県まで足を運んでくれるお客様に対して、胸を張ってオススメできるような女の子を揃えなければならない。

「あ、もちろん、オープンまで他店で働いてて良いんやで。」
「それでも待機料をくれんですか?」
「うん。そういうこと。」
「向こうに引っ越ししないとダメですよね。」
「最初は、うちの店で借りるマンションに住んだらええよ。」

 これまでに俺が携わってきたファッションヘルスでは、気軽にアルバイト感覚で働いてみようという女の子が多かったけど、やっぱりソープは違う。お金に関するトラブルが大半だけど、それ以外にも何かしらの理由によって、人生を逆転するためには風俗しかないと覚悟を決めた女の子が、ソープで働くことを希望して、俺のところに面接にやってくる。

 だから、俺としては、まずは自分のことを信用してもらえるように全てをさらけ出して話し、彼女たちからの要望に対しては、出来る限り応えるつもりであることをアピールする。もちろん、出来ないことは出来ないと言っておかないと、あとでトラブルになるから、決して嘘はつかない。

「田附さんって、面白いですね。」
「ハナちゃんの方が、面白いわ。」
「わたし、こんなに笑ったのは久しぶりかも。」
「嬉しいこと言うてくれるやん。」
「ほんとですよ。」

 あくまでソープの女の子を探す面接だから、採用できなければ意味がないんだけど、こうして俺と話をして楽しんで帰ってくれる子がいると嬉しい。ハナちゃんからは最終的に、うちで働いてくれるという確約は得られなかったけど、たぶん近いうちに彼女の方から連絡が来るような気がする。

「もしもし、会長、お疲れさまです!」
「田附、お前、いつ帰ってくるねん。」
「今晩ですけど、どうしましたか?」
「ほな、夜、椿や。」

 忙しい日々のなかで、少しだけほんわかとした気持ちになっていたのに、会長の電話によって急に現実に引き戻された。また、クラブ「椿」に召集されたということは、朝までコースの大説教タイムかもしれない。俺って、褒められて伸びるタイプの人間だから、あんまり怒られると意気消沈して動かれへんようになってしまうねん。

 いや既に、会長に怒られることをイメージしていたら、何となくテンションが下がってしまって、あの電話のあとに来た二人の女の子の面接は、いまいち上手くいかなかった。新幹線の中でも憂鬱な気分は晴れないから、真っ暗で何も見えない車窓からの景色を、ボーっと眺めながら京都まで戻ってきた。

「すみません、遅くなりました。」
「おう田附、お疲れさん。」
「はい。」
「はよ、こっちに座れや。」
「はい。」

 いつもの会長とは、何かが違うと思った。上手くは説明できないけど、確実に普段とは違う空気を、会長から感じる。俺が勝手に会長に対して恐怖心を抱いて、ビビりながら駆けつけたから、妙な違和感を感じるだけかもしれないけど。

「田附、社長や。」
「え?なんですか?」

 会長に聞き返しながらも、頭のなかでは石川部長とクリちゃんからの電話のことを思い出している。石川部長は俺のことを「田附社長」って呼んだ。クリちゃんも「社長の件」だと言って、何かゴニョゴニョと話していた。俺はてっきり二人とも頭がおかしくなったのかと思っていたけど、たぶん今、会長が言ったことと同じことを、俺に伝えようとしていたんだ。

「ソープは、お前が社長や。」
「どういうことですか?」
「新店舗は、全てお前に任すっていうことや。」
「俺が社長ですか。」
「そうや。精一杯、頑張れよ!」
「はい、ありがとうございます。会長。」


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