この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百十三話「悪夢」

time 2017/04/04

第二百十三話「悪夢」

 雄琴のソープランドの売買の本契約が完了し、ピチピチグループ史上最大の投資額となる大規模な改修工事が始まった。プライベートでも、カオルコが見事にお受験を乗り越え、お嬢様大学の付属小学校への入学が決まった。公私ともに明るいニュースがあるのに、俺自身はミカを失った悲しみだけが心を埋め尽くしている。

「これ、どっちの白が良いと思います?」
「派手で目立つから、こっちでお願いします。」
「はいはい、分かりました。」
「よろしくお願いします。」
「明日は、家具屋を連れてきますんで。」
「はい。」

 俺のやるべき仕事は、たぶんそれなりにやっている。建設会社のオッサンとの打ち合わせだけではなく、女の子を集めるための準備も進めていて、既存の店舗で働いていた女の子たちから数名をピックアップして待機して貰ったり、グループ各店への協力を依頼したりして、オープン時に必要な人員が確保できる見通しになっている。

「ただいま。」
「おかえりなさい、パパ。」
「カオルコ、今度の日曜日、どっか行こか?」
「日曜は、おばあちゃんが来るからアカンもんね、カオルコちゃん。」
「そうなんや。」
「サクラコ、自分のおもちゃは自分で片付けなさい。」

 娘ふたりが居るおかげで、なんとか平常を保っているように見えるけど、あの一件以来、サエコとふたりの会話は皆無になった。

「パパ、明日から出張やねん。」
「どこに行くん?」
「琵琶湖のある県、カオルコは行ったことあったかな?」
「うん、あるよ。」
「そうか、琵琶湖のあるとこに行くねん。」
「いいなぁ、私も行きたい。」
「カオルコちゃん、アカンよ。パパは、私たち家族には見せられへんようなことをしてはるから。」

 祇園に飲みに出掛けて憂さ晴らしをしたいけど、まっすぐに自宅に帰って、反省している姿を見せようと我慢している。あまりに惨めだ。自分の行いの結果だから、まさに自業自得なんだけど、それにしても、こんな状態をいつまで続ければ良いんだろうか。

 まだ眠気を感じないのに寝室に入った。リビングからは、サエコと娘たちの楽しそうな声が聞こえてくる。ここは俺の家やのに、めっちゃ寂しいやん。

“西城さん、久しぶりに面会しませんか?”
“少し時期尚早かと思いますが。”
“そのお気持ちは分かりますが、私はお会いしたいです。”

 あの日から数日後、ミカはサエコと二人だけで会い、今後一切、俺と会いませんと誓ったらしい。ミカには特に恐怖心のようなものはないようだけど、約束したことは守らなければならないという律儀な一面があるから、俺との密会には抵抗があるようだ。俺を癒してくれるのは、ミカしかおらんのに。

「もしもし、鮫島ですが。」
「あ、おはようございます。」
「そろそろ出る時間ですけど。」
「ああ、ごめん、寝坊した。」
「そうですか。」
「急いでいくから、待ってて!」

 結局、何時に寝付いたのか分からないけど、夜中にも何度か悪夢にうなされて目覚めたりして、浅い眠りのままで朝を迎えてしまった。朝の八時ごろに時計を見て、そろそろ家を出る時間だと思った記憶はあるけど、いつの間にかもう十時を過ぎてるやん。

 悪夢と言うのは、もちろん、あの日の出来事に起因している。ミカとの楽しい時間をぶち壊す悪魔が、扉を破壊して部屋に侵入してきて、俺の頭をグイグイと押さえつける。謝罪を続けながら気を失った俺は、いつの間にか路上で物乞いをしている。そして、民家から漏れる光に吸い寄せられるように近づいて、窓から中のようすを覗き込むと、カオルコが楽しそうに歌い、サエコとサクラコが楽しそうに手をつないで踊っている。

 ほんまに俺は、限界なのかもしれん。また、精神的に疲れ切って、シズエの頃と同じように病院送りになるのかもしれない。鮫島部長と一緒に、ソープランドの建物内を歩き回りながらも、全く仕事に集中できず、気持ちが落ち込むばかりだ。そんな時、一通のメッセージが届いた。

“やはり私もお会いしたいです。我慢できません。”


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