この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百十一話「ウソ」

time 2017/04/01

第二百十一話「ウソ」

 「嘘つきの浮気野郎!おるのは分かってんねんで!おい、噓つき野郎!」と叫びながら、壊れてしまいそうなくらい思いっきり扉を叩いたり、蹴ったりと騒ぎ立てるサエコに耐えかねて、ミカが玄関の扉を開け、サエコを室内に招き入れた。俺は慌てて服を着ようとしたけど間に合わず、上半身は裸で、ズボンに片足を突っ込んだだけの恥ずかしい状態で、サエコと対面する形になった。

「ここって、北海道なん?」
「いえ、違います。」
「イクラの漬けたやつ、買ってくれたん?」
「そこに、あるけど。」
「どれ?」
「あの、いや、その紙袋の・・・」
「へえ、阪急百貨店って、北海道にもあんねんな。」

 悟りの境地に立ったかのような落ち着いた表情と言葉で、じわじわと攻めてくる感じが、俺は苦手だ。思いっきり怒ってくれたら、大袈裟に謝って、なんとかこの場を納めることが出来るんだけど、そういう雰囲気ではない。

「わざわざ阪神百貨店に行ってくれてんな。」
「はぁ?」
「でも、阪神には無かったから、次は阪急に行ってくれたんや。」
「は、はい。」
「探し回ってくれて、ありがとう。」
「あ、いや・・・」

 ミカが、お茶をマグカップに注いでサエコの前に置いた。実はミカは、大手の企業の社長秘書室に勤務しているから、お茶の出し方も洗練されている。客人が来たら、まずはお茶を出すっていうのが日本の常識なのかもしれないけど、今は、そんなことをしてる場合じゃない。いや、出された方のサエコも、ゴクゴクとお茶を飲んでるし、どういうことやねん。

「でも、北海道の出張はホンマやねんで。」
「うん、知ってるよ。」
「え?」
「すすきのの近くのホテルに泊まってたもんな。」
「はい・・・」
「夜の遅くまで、あちこち飲み歩てたもんな。」
「それは、クリちゃんを慰めるために・・・」
「分かってる。それも部長の大事な仕事やからな。」

 なんやねん、この流れは。サエコは一体、何を知ってんねん。どこまでが適当に当てずっぽうで言ってて、どこからが本当に知ってることやねん。ああ、分からん。俺、ほんまにどうしたらええの?

「北海道に行くって言うて、一日目は、ここに泊まったな?」
「え!なんで・・・?」
「飛行機は、次の日の何時頃かな。十時過ぎやった?」
「は、はい。なんで・・・?」
「カバンやん。」
「はぁ?」
「私の代わりにカバンが見張ってるって言うてたやろ、忘れたん?」
「いや、あれは、気持ちの問題やろ?」
「違うわ!サイドのポケットを見てみぃ。」

 普段は全く使っていないカバンの横に付いているポケットに手を突っ込んでみると、タバコの箱を薄くしたくらいの大きさの黒い電子装置のようなものが出てきた。緑色の小さなランプが光っているけど、それ以外にはボタンも何もない。

「これ、なに?」
「GPSや。ジー・ピー・エス。」
「え?どこにおるか分かるやつ?」
「そう、衛星から監視しててん。アンタの行動をな!」

 ミカとの交際がバレた事件をきっかけに、カバンを持ち歩くように習慣づけたことが、完全に裏目に出た。まさか本当に、カバンによって監視されいたとは、全く考えてなかった。さすがにGPSなんて装置を使って旦那の行動を見張るのはヤリ過ぎじゃないかとは思う。でも今の俺は、そんなことを言える状況じゃない。そう諦めかけた時、二人の話を静かに聞いていたミカが口を開いた。

「奥さんは結局、亭主のことを信じてなかったってことですね。」
「以前は、心から信じてました。」
「もう今は、信じていないということですか?」
「嘘ばっかり繰り返している浮気野郎を、なんで信じられるの?」
「まぁ、そうですけど。」
「あなたと二人で裸で映ってる写真を見て、なにを信じられるの?」
「い、いいえ。なにも信じられませんね。」

 この期に及んではサエコの言い分の方が全面的に正しいのは分かるけど、納得するのが早すぎやろ。全然、俺の助け舟になってないやん。

「ミカさんとは、また別の機会に話をさせてください。」
「はい。」
「今日は、この嘘つき浮気野郎を始末するから。」
「始末って・・・サエコ。」
「なに?なんか文句あんの?」
「ひぃ、なんも文句有りません!」

 そういえば、お受験の面接でカオルコが、嘘をついたオオカミが懲らしめられるのが爽快だから赤ずきんちゃんが好きっていう話をしていたな。たしか、あのオオカミは、腹のなかに石を詰められて川に放り投げられるねんな。かなり残酷な話やな。

 俺が余計なことに思いを馳せている間もずっと、サエコのマシンガン説教は止まらない。俺は、ただ俯いたままで正座して、反省していることを装うしかない。

「私を舐めてるから、こうなるんやで。」
「はい。」
「自分のことしか考えてないやん。」
「はい。」
「なぁ、GPSって、何の略か知ってる?」
「いや・・・」
「グレート・ポリス・サエコや!」

 なんで漫画のGTOみたいな言い方をしてるんか知らんけど、そんなことより俺、このあと、どうなるんやろ。ほんま最悪や。誰か助けてください。


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