この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百七話「メッセージ」

time 2017/03/28

第二百七話「メッセージ」

 すすきのの店が全く期待通りの結果を出せず、担当のクリちゃんが軽い鬱状態になってしまっているらしい。うちのグループが京都以外で出した初めての店舗で、俺を含め幹部それぞれが出資をしている店舗でもあるから、うまくスタートして欲しかったけど、新天地での出店は、そう簡単ではなかったようだ。時間が作れれば、様子を見に行ってあげようと思いつつ、俺の方も慌ただしい状態で、なかなか北海道まで行ける機会がない。

「固定客を増やしていくことやで、クリちゃん。」
「でも、観光客ばっかりなんですよ。」
「地元の人らを集められへんの?」
「その辺は、老舗のとこが強いですよね。」
「まぁ、そうかもしれんな。」

 クリちゃんは、グループの専務にまで上がった人物だから、決して実力がないわけじゃない。だから、もし俺が札幌の担当になったとしても、同じ結果になった可能性もある。俺自身も、これから滋賀県で勝負するわけだから、クリちゃんの二の舞にならないように頑張らないといけない。

「部長、先月の売り上げでっす。」
「めっちゃ笑顔やん。」
「過去最高の売り上げ記録を更新しっました。」
「和臣、すごいやん。」

 雄琴に入ったり、本社で打ち合わせをしたり、マダムで浩平からソープについて教えて貰ったりと、俺が店にいる時間なんて僅かしかないから、この数字は正真正銘、和臣店長の努力によるものだ。俺が現場を離れても、さらに自分の店が成長し続けてるって、めっちゃ嬉しいわ。

「この後、なにか用事あんの?」
「特にないでっす。」
「ちょっと飲みに行こか?」
「はい、よっろこんで!」

 ミカといるのが今一番の楽しい時間だけど、こうして部下と飲みに行く時間も大切にしたい。オヤジや佐伯さんに連れられて祇園で飲み歩いていた俺も、いつの間にか連れていく側の人間になっている。来年には四十歳になるし、そろそろ大人っぽい遊び方をせなアカンのかもしれん。

「あら、田附さん、えらい久しぶり違うの。」
「ママ、こいつ、うちの新しい店長やねん。」
「えらいハンサムボーイやねぇ。」
「俺の方がハンサムボーイやろ?」
「アキエちゃん、鏡ひとつ、田附さんに。」
「いらん、いらん。持ってこんでええで!」

 すでに二十年近く通っている祇園は、俺にとってホームグランドだ。しばらく行ってない店でも、ふらっと立ち寄ってみると、嬉しそうに迎え入れてくれる店が、いくつもある。師匠である佐伯さんに倣って、俺もあまり昔話とか説教じみたことは言わないけど、一緒に飲んで回りながら、和臣が何かを感じ取ってくれれば良いと思う。

「ごちそうさまでっした!」
「今日も楽しかったな。」
「はい、気を付けて帰ってくだっさい。」
「俺は大丈夫やって。」
「おやすっみなさい!失礼します。」

 仕事の話なんかそっちのけで、和臣と馬鹿話をしながら、五軒くらいの店をハシゴして、最後にタケちゃんの店でワインを一本開けて、解散した。このまま機嫌良くミカの部屋に転がり込んで寝ようと思って、メッセージを入れてみたけど返信がないから、仕方なく自宅へと帰ることにした。

「ただいま。」
「あれ、今日は帰って来たんや。」
「あ、そうそう。明日の朝、京都で打ち合わせやねん。」
「そうなんや。お腹空いてない?」
「そやな、なにか・・・あ、やっぱりええわ。いらん。」

 ポケットで携帯電話がブルっと揺れた。きっとミカからの返信だ。サエコが「簡単なものやったら作るけど。」と言ってくれているけど、酔っぱらって聞こえていないフリをしながら寝室に移動して、慌てて携帯電話を確認したら、和臣からの「本日はごちそうさまでした。今後ともご指導をお願いいたします。」という律儀なメッセージで、がっかりした。

 それから数分後、ベッドに仰向けになって寝ころびながら、まどろんでいると、今度こそミカからのメッセージが届いた。風呂に入りながら本を読んでいて、俺からのメッセージに気付かなかったらしい。

“ミカに会いたかったのに。残念。”
“私も!明日は会えるかな?ケータイを持ってお風呂に入るから。”
“明日は絶対に会おうな。愛してるで。”
“私も!寂しい、寂しい、寂しい。”
“ミカ~!俺のこと、愛してる?”


sponsored link

down

コメントする