この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百四話「田村浩平」

time 2017/03/23

第二百四話「田村浩平」

 雄琴での買収店舗の決定から三日後、鮫島部長から電話がかかってきたんだけど、どうも様子がおかしい。すぐに時間を作って欲しいと言われたから、和臣とのミーティングを中断して、上の階に上がろうとしたんだけど、なぜか木屋町の喫茶店に来て欲しいと言う。その喫茶店は、以前にレッドポイントグループの女の子を引き抜こうとしてる現場を目撃されて大騒動になった場所で、あれ以来一度も行っていない。あまり気乗りはしないけど、鮫島部長の様子がおかしいので、仕方なく向かうことにした。

「すみません、お待たせしました。」
「あ、田附部長。おはようございます。」
「うん、急にどないしたん?」
「あの、実は・・・」

 こんなに歯切れの悪い鮫島部長は珍しい。四人掛けのテーブルには、鮫島部長のほかに、あと二人が座っていて、ひとりはキョウカさんなんだけど、もうひとりの男の方とは面識がない。この三人の様子を見て、ある程度の状況は察しがついたけど、とりあえず黙って席についた。

「こちら、タフ、いや、タヅ・・・タヅケさん!」
「はじめまして、田村浩平です。」
「あ、はじめまして。田附です。」
「昨日まで、フォーナイトで店長をやってました。」
「あ、そう。雄琴の?」
「はい、そうです。」

 これは確かに、ちょっとマズい状況だ。フォーナイトの現役店長を引き抜けるツテが出来たことは既に会長に報告済みなんだけど、店をオープンさせる前からご近所さんと揉め事に発展するような事態になったら最悪だから、しばらく保留にしておこうという結論になったにも関わらず、今こうして俺たちの目の前に、昨日辞めたばかりの田村くんが居る。

「えっと、なんでフォーナイトを辞めたん?」
「全然、給料が上がらないんで。」
「そうなんや。前から辞めようと思ってたん?」
「いや、キョウカさんから話を聞いて、こっちに来ようと。」
「ああ、えっと、前から辞めようと思ってたんじゃなくて?」
「そうですね。電話で話を聞いてからです。」
「ああ、そう。そうなんや。」

 もう起きてしまったことは仕方がない。ここは開き直るしかない。俺がそう腹を決めた瞬間、俺の横で黙って話を聞いていた鮫島部長も同じように腹をくくったようで、「とりあえず、うちの店でマネージャーとして働いてもらう形にしましょう。」と、呟いた。

「じゃあ、また明日から同じ店で働けるね。」
「そういうことやな。」
「わーい。嬉しい、嬉しい。」

 この事の顛末は、鮫島部長から会長に報告してもらった。だから、会長が正確にはどのように言ったのかは分からないけど、鮫島部長からの伝聞では「もう来てしまったんだから仕方がない。」という感じだったようだ。さすがは俺たちの会長だ。面倒なことが起こる可能性があるけど、その一方で得るものも大きいということを理解して、一緒に腹をくくってくれた。

 嬢として働いていたキョウカさんの話を聞くだけでも、かなり役に立つ情報が多くあったけど、やはり店長をしていた男から聞く方が、圧倒的に有益な話が聞ける。俺は時間に余裕がある時には出来るだけピチピチマダムに足を運び、浩平からソープランドのイロハについて教えてもらうようにした。女の子の集め方に始まり、指導方法、集客、顧客管理、告知、イベントなど、とにかく全てのことについて話を聞き、それから自分のアイデアについて話をして意見を求めた。毎日毎日、新たな発見があって本当に面白い。

「明日も、同じくらいの時間で良いですか?」
「あ、ごめん。明日は俺、休みやねん。」
「そうなんですね。」
「そう、娘のお受験の面接やねん。」

 さっきもサエコから電話がかかってきて、面接のことを忘れていないかと確認された。どんだけ張り切ってるのか知らんけど、やっと「面接の日、忘れてないよね?」と言われ続ける日々から解放されるかと思うと、心から嬉しい。とはいえ、本番前日だと思うと急に緊張してきた。

大丈夫かな、俺。


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