この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百三話「タウエさん」

time 2017/03/22

第二百三話「タウエさん」

 フォーナイトの現役店長の件はさておき、キョウカさんの話からは学ぶべきことが数多くあった。本番ありの風俗であるソープランドで働く女性たちは、お小遣い欲しさにアルバイト感覚でやってくるファッションヘルス嬢たちとは、根本的に覚悟が違うようだ。そして、そんなソープ嬢たちを集めるには、グループ全体からの協力を求めなければならないことも分かった。

「もしもし、田附ですが。」
「おう、どないした?」
「会長、今は京都ですか?」
「いや、雄琴や。」
「え?」
「ちょうどええ。お前、今から来い。」

 俺からかけた電話なのに、勝手に切られた。しかも、いきなりの雄琴への呼び出し。本当に無茶苦茶なんだけど、ああいう性格じゃなければ成し遂げられないことをしている人だから、もう諦めるしかない。会長に急に呼び出されたことを念のため鮫島部長に伝えたら、一緒に雄琴へ行くことになった。

「キョウカさんが、タウエさんって面白い人ですねって言うてましたよ。」
「田上さんって誰?」
「たぶん、田附さんのことだと思いますよ。」
「普通、タヅケとタウエって間違う?」
「そうですね。」
「だいぶ天然やな。かわいらしいから、ええけど。」
「そうですね。」
「ええタイミングで、ええ子が入ってきたな。」

 鮫島部長からの返事や相槌が急に途絶えたと思ったら、いつの間にか寝てしまっている。どっちが先輩なのか微妙な間柄だし、同じ部長格だから上下関係が無いとは言え、俺が運転しているのに堂々と助手席で寝るとは、さすがは鮫島部長だ。この業界は、不規則な生活になりがちで常に寝不足状態が続いているから仕方ないとは思うけど、せめて会話を終わらせてから寝てくれへんかな。会話してる相手の寂しさを理解して欲しい。

「もしもし、田附です。」
「おう、なんや?」
「雄琴に着きました。」
「どこや?」
「フォーナイトに向かう通りの入り口です。」
「そのまま入って来い。」
「はい、分かりました。」

 決して広くはない川筋の道路を、ソープランドの呼び込みに注意しながらハザードを点けてゆっくりと走っていくと、フォーナイトの重厚な門の前に、会長が立っていた。呼び込みと見間違うような大きなアクションで、俺に何か合図を送っている。どうやら、フォーナイトのスグ手前にある壁と壁に挟まれた小道へ入っていくように指示しているようだ。

「おはようございます!」
「ええから、そこを入って行け!」
「は、はい。」

 運転席のウィンドウを下げて俺が会長に挨拶をした声で、鮫島部長が目を覚ました。クルマ同士がスレ違うことさえ出来ない細い小道の奥は、別のソープランドの敷地になっていた。真っ白なアラビアンナイトのような建物で、店名は「宝石」っていうらしい。静まり返っているけど、店の前に黒服がいるから、営業中のようだ。事情が全く分からないけど、とりあえず駐車場にクルマを停めて、後ろから歩いてきた会長に挨拶した。

「どや?」
「え、会長。何がですか?」
「このソープや。どや?」
「え?あの、何ですか?」
「このソープを買うねん。どうや?」
「ホンマですか!」
「隣がフォーナイトやし、ええと思います。」

 おいおい、さっきまで寝てたくせに、いきなり俺らの会話に入ってきて、全てを理解してますっていう感じでコメントするのは、やめてくれへんかな。しかも、俺が言おうとしたことと全く同じことを言うてるから、俺が言うことが無くなってもうたし。

「そう思うか?鮫島。」
「はい、最高の物件ですね。」
「そうやろ。」
「ここなら楽勝ですね。」
「見た目も、ええやろ?」
「高級感があります。楽勝ですね。」

 今になって、道後温泉のときの石川部長の気持ちが分かった。俺が担当することになっている店について、まだ何も決まっていない段階で、目の前で「楽勝」と言われる精神的な重圧、そして、「楽勝じゃないです」とは言い返せない辛さ。

「中も見て良いんですか?」
「当たり前や。」
「じゃあ、行きましょうか?」
「おう。」
「タウエさんも、行きましょう。」

 誰がタウエやねん。いやいや、そんなことより、俺はもうちょっと外観を確認して、実際にお客さんが来店されたときの感じをシミュレーションしながら、じっくりと中の方に進みたいんですけど。もう頼むから、先に先に、勝手に進まんといてや。


sponsored link

down

コメントする