この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百一話「面接」

time 2017/03/20

第二百一話「面接」

 もうそろそろ雄琴の件にも進展がありそうだと思いながら、なにも目立った動きがない悶々とした日々を過ごしている。俺の心の中にポッカリと開いた穴を埋めてくれるのは、妻のサエコではなく、やはりミカしかいない。ここ最近は、雄琴への泊りの視察だという口実で家をあけ、週の半分くらいはミカの部屋で寝泊まりする生活になっている。

「また、琵琶湖?」
「そうそう、雄琴に二泊くらいすると思うわ。」
「大変やね。頑張ってな。」
「おう。」
「あと、来月の面接、忘れんといてな。」
「もう何回も、うるさいな。」
「面接は両親で参加やらかな。」
「分かってるって。来月二十日やろ。」
「うん、そう。」

 最近のサエコと言えば、俺が家を留守がちなのも影響しているのかもしれないけど、子供たちの教育に夢中になっている様子で、まずは長女のカオルコを名門小学校に入れなければならないと、口を開けばお受験のことばかりだ。自宅の玄関を開けるとサエコが飛んできて、まだ俺が靴を脱ぐ前から、英才教育だの、授業料だの、面接だのと、俺が相槌も返さないのにベラベラと話し続けるから、本当に嫌になる。

 実際のところ、俺自身も中高とエリート進学校に通っていたから、子供の教育に関しては理解がある方だと思う。小学校からのエスカレーター式の学校に入れる方が、子供の負担も少なくて良いから、お受験にも賛成だ。でも、仕事から戻って疲れているのに、俺の後ろをついて歩いてピーチクパーチクと、同じような話ばかりするサエコには、もうウンザリだ。

「面接に来ていくスーツも買わないと。」
「うんうん、買ったらええやん。」
「白かな。紺かな。」
「紺の方がええんちゃうかな。」
「私、紺は似合わんで。」
「知らんがな。」

 きっと俺に似たんだと思うけど、カオルコには物事を学ぶセンスのようなものが備わっていて、お受験のための勉強にも嫌がらずに取り組んでいるらしい。その点、やはり不安なのはサエコで、緊張のあまり余計なことをベラベラと喋り出す可能性が否定できない。スーツの色を悩む前に、もっと面接の内容について情報収集した方が良いと思うけど、どうせ俺が言うことは聞かないから、口を出さないようにしている。

「もしもし、田附部長ですか。」
「お疲れさまです。鮫島部長。」
「あの、面接の件ですけど、いつにしましょう。」
「え?面接は、来月二十日。」
「はぁ?そんなに先ですか?」
「えっと、何の話やったっけ。」

 自宅から出てすぐは、サエコのお受験トークが耳鳴りのように頭のなかを反響していて、思考停止状態になっている。だから、鮫島部長からの電話にも、おかしな対応をしてしまった。面接っていう言葉を聞いただけで、反射的に娘の面接だと思い浮かべている時点で、かなり重症かもしれない。

「ごめんなさい、アレですよね。」
「キョウカさんとの面接です。」
「うん、あの雄琴のスリーナイトで働いていた子。」
「そうです。子って言っても、もう三十路ですけど。」
「今日も出勤ですか?」
「はい、遅番で出勤します。」
「じゃあ、出勤してスグぐらいで良いですか?」
「分かりました。」

 雄琴に関する内部からの情報を収集することに苦戦している俺に対して、救いの手を差し伸べてくれたのが鮫島部長だった。うちのプリプリの上で営業してる鮫島部長の店は、二十代後半から上の女の子ばかりを集めた熟女専門のファッションヘルスなんだけど、そこに入ってきた新人が、以前にスリーナイトで働いていたというのだ。年齢が三十を超えて、もう超高級ソープランドで働くことが厳しくなったからと、一般的には旬を過ぎた年齢の女性を採用している鮫島部長の店に応募してきたというわけだ。

「はじめまして、キョウカさん。」
「あ、はい。はじめまして。」
「下のプリティ&プリズムの店長の田附です。」
「タルケさん?珍しいお名前ですね。」
「いや、タ・ズ・ケ。」
「ごめんなさい。タヌケさんですね。」

 何度も名前を間違えられて、かなり失礼なことをされているのかもしれないけど、キョウカさんは上品な雰囲気を身にまとっていて、全く悪い気はしない。これが日本一のソープランドで働いていた女の子の実力なのかと、改めて感心した。そして、きっとこの子との出会いが、俺の雄琴プロジェクトを前進させるターニングポイントになるのだろうと確信した。


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