この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二百話「自分のペースで」

time 2017/03/02

第二百話「自分のペースで」

 ミカの部屋に立ち寄って、一週間前から置いたままになっていた道後温泉のお土産を持って、自宅へと戻った。返品が出来なかった福岡のお土産に関しては、ミカが職場や知り合いなどに配って処理してくれるというので任せた。サエコが喜んでくれるだろうと思って買った明太子も、どう考えても話の辻褄が合わないので諦めた。

「ただいま。帰ったで。」
「パパ、おかえりなさい。」
「カオルコ、これ、お土産やで。」

 さすがに十日間も家を留守にしていると、少しはレア感が出るのか、いつもよりも温かく迎えられた。サエコも「長い出張で大変やったね。」と言って労ってくれて、賞味期限が長い乾物やお菓子ばかりのお土産にも、喜んでくれた。ミカと二人の旅も良いけど、やっぱり家族も良いもんやな。

「高校の同級生にも会えたの?」
「西村先生は相変わらずやったし、藤枝も立派になってたわ。」
「え、十日も居て、二人だけ?」
「あ、うん、仕事やったからな。」
「でも、朝から晩まで働いてないでしょ。」
「いや、あの、あ、あと、竹井も。」
「竹井さんって、大宰府の?」
「サエコ、よう覚えてんなぁ。」

 余計なことばかり記憶力が良いサエコから、どうして福岡で店をしている竹井と松山で出会ったのかと問い詰められそうになったけど、「よう覚えてんなぁ。」と関心した素振りを見せながら誤魔化した。今までにサエコに対して竹井の話をしたことなんか、僅か数回しかないのに、ホンマによう覚えてんなぁ。怖いわ。

 翌日の朝、こちらも久しぶりにプリプリに出勤すると、道後温泉で別れた石川部長が訪ねてきて、「楽勝じゃないですよ、ほんと。」と愚痴るだけ愚痴って帰った。会長自身も、京都の夜の世界で色んな経験をしながらピチピチグループを築き上げた人だから、口では「楽勝や。」と言いつつも、色んな問題が出て来ることくらい分かってるだろう。

 一方の札幌は、内装工事にも目途が立ち、女の子の面接が始まったようだ。クリちゃん自身も少し落ち着きを取り戻したようで、「店さえ開けば、俺、頑張れますから。」と久しぶりに明るい意見を聞いた。俺もピンクデザイアの時に、完全にゼロからの新店立ち上げを経験しているから、クリちゃんの気持ちは分かる。とにかく、早く店を開けないことには何も始まらんからな。

「田附、来い。」

 電話に出てから、僅か三秒で切れた。こちらの都合なんてお構いなしの会長からの呼び出しだ。愛人と一緒に福岡旅行に行くという詳細までは話していないけど、日曜日までは京都を離れるとだけは言ってあったので、週が明けてから連絡をしてくれたようだ。普段の命令の中には無茶苦茶なことも多いけど、社員のプライベートに関しては干渉せず、出来れば上手く行くようにと配慮してくれるところが、会長の優しさだ。

「おはようございます。」
「おう、田附。調子どうや?」
「ヨカです。」
「お前、土産は?」
「え?」
「福岡に行ってたんちゃうんか?」
「なんで、福岡って知ってるんですか?」
「顔に書いてあるやん。」

 俺は絶対にミカとの旅行先については言ってない。でも、たまに会長は、こんな感じの超能力のような力を発揮するから怖い。きっと俺の行動の何かを見て、福岡だと確信したはずなんだけど、それが何なのかは分からない。

「それはそうと、雄琴の件やけどな。」
「はい。」
「お前は、運営のことをしっかり把握しろ。」
「分かりました。」
「俺は、買収できそうな店を探すからな。」
「はい。」

 雄琴のソープランド計画については、今のところ、俺と会長の他には、鮫島部長しか知らない。とりあえず、すすきのと道後温泉の店を落ち着かせるまでは、次の出店計画については考えないという方針らしく、鮫島部長には雄琴を含めた三店舗の後方支援という役目が充てられた。

 幹部四人それぞれの役割を見てみると、やっぱり会長は俺のことを最も信頼してくれているんだろうなと思う。億単位の投資をするソープランドという計画を任せてもらえて、しかも、物件を決める前から準備をするようにと指示をしてくれるんだから、これは間違いなく信頼の証だ。何としても会長の期待には応えなければならない。

「和臣、おる?」
「はい、ここにいまっす!」
「次の店長会議、お前も出席な。」
「え、ほんとっすか。」
「しっかり用意しとけよ。」
「大丈夫でっす。任せてくっださい!」

 この店でも色んな事があって面白かったけど、そろそろ和臣に店の中のことは全て任せて、次のステップに進まなければならない。この先、どうなるのか自分でも分からんけど、好きなことをしていたら、だいたい上手く行くから、自分のペースで頑張っていこうと思う。

「店長!おはようございます!」
「あ、イツキちゃん、おはよう。」
「先月、私が一位を奪還いたしました!」
「おお、凄いやん!ヨカ、ヨカ!」
「店長、福岡に行ってきたの?」
「ええ、なんでイツキちゃんまで知ってんの?」

 

第四章「やはり京都」

<完>


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