この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百九十七話「おごと視察」

time 2017/02/27

第百九十七話「おごと視察」

 平和堂っていう滋賀県のご当地スーパーマーケットを除けば、特に目立った建物が無い道路を、会長を助手席に乗せて、雄琴へと向かう。旧道の方を回れば、琵琶湖が見えたりして風光明媚なのかもしれないけど、信号が多いし、道も狭いから、二倍くらいの時間がかかるらしい。

「なんて店に向かえば良いですか?」
「とりあえず車でグルっと回って、それから考えよか。」
「分かりました。」

 今回の雄琴視察は、これまでに行ったすすきのと道後温泉の視察と違う点が、いくつかある。まず、視察メンバーが俺と会長だけで、他の幹部は参加していないこと。これに関して、どうして二人だけなのか、会長の真意は分からないけど、前にクリちゃんが言っていた通り、会長は俺に雄琴のソープランドをやらせようとしているようだ。

 そして、もうひとつ。これまでとは違って、会長はまだ雄琴での出店候補地を決めていない。すすきのはロビンソンデパートの裏のビル、道後温泉は温泉街に隣接した新築の風俗ビルを借りて営業しようという会長の意向に基づいて視察をしたけど、雄琴に関しては、そういった事前の候補地がない。

 出店候補地が決まっていない最大の理由は、風俗無法地帯であるかのように見える雄琴でも、ソープランドの新規開業は許されておらず、ピチピチグループのように新規で進出する場合には、既存で営業しているソープランドを買収するしかないことだ。新規で店舗を始めるのにも様々な苦労があるけど、同業他社からの買収は、さらに難しいものだ。

「店舗の改装に、一億かけるからな。」
「い、一億ですか。」
「ソープは儲けがデカい分、金をかけんとアカン。」
「そうですね。」
「お前、三割でも五割でも、好きなだけ出資してええで。」
「あ、いや。」
「なんやねん。出したいんちゃうんか。」

 地方都市の小箱のファッションヘルスの開業とは、桁が違う。俺が、これまでの出資話で、強気に出資割合を主張できたのも、開業資金が安いからだ。改装だけでも億を超えるという案件に対して、簡単に何割を出すなんてことは言えない。これまでほとんどの案件で少額しか出資させて貰えてないから、少しは余裕があるけど、出せても二割かな。

「あれが、フォーナイトや。」
「どれですか?」
「あのグレーのビルがあるやろ、あれや。」
「ああ、上の看板にフォーナイトって書いてますね。」
「あれが、雄琴一の、いや、日本一のソープや。」
「へー、見た目は地味ですけどね。」

 俺は歌舞伎町でのアルバイトから始まって、京都で関わった三つの店舗を含めて、ファッションヘルスにしか関わったことがない。もちろん、ソープランドで遊んだことはあるけど、経営に関しては未知の領域だ。日本一のソープランドを目の前にして、ここに勝てるような店舗を作らなければならないと俄然ヤル気が出てきた。でも、どうも様子が変だ。

「会長、ここ、今日は休みですかね?」
「ソープに休みなんかないわ、アホ。」
「でも、客引きが居ませんよ。」
「アホか。一流の店には、客引きなんか必要ないねん!」

 雄琴の街に入ってから、いくつものソープランドの前を通ったけど、たぶん全ての店の前に、黒いスーツに身を包んだ客引きがいた。道を歩く人なんて皆無に近い街だから、客引きたちは大きなアクションと大きな声で、なんとか通行するクルマの注意を引こうと必死だった。場所によっては、ハザードを点けて徐行しないと、進めないようような場所もあった。それに引きかえ、フォーナイトの店前は、静まり返っている。

「うちも、客引きしてないやろ。」
「はい、そうでした。」

 ピチピチグループは、キャッチや呼び込みで溢れる木屋町において、一切の呼び込み行為をしないグループとして知られている。俺自身、呼び込みをしないグループであることに魅力を感じて、就職先にピチピチを選んだ。

「もちろん、うちのソープも呼び込みは無しや。」
「分かりました。」
「呼び込みせんでも客が来る超高級ソープをやるからな。」
「はい。」
「田附、失敗は許さんからな。気合い入れてやれよ。」
「は、はい。」


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