この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百九十三話「ケイコちゃん」

time 2017/02/21

第百九十三話「ケイコちゃん」

 クリちゃんが雄琴の件で電話をくれた翌日、月例の店長会議があり、会議終わりに会長から「来週末は、道後温泉や。」と告げられた。クリちゃんの情報、全くアテにならへんやん。札幌で業務に追われているから、耳の調子まで悪くなってるんかもしれん。

 たしかに、道後温泉と言えば、俺が中学と高校の六年間を過ごした松山だから、土地勘がある俺に任せるのが順当なところだろう。雄琴でソープをやる気満々だったけど、道後温泉だとプリプリと同じくファッションヘルスということになる。サエコには、デカい仕事って言ってしまったけど、ちょっと思っていたのとは違う感じになるな。

「おい、クリちゃん!」
「もしもし、田附さんですか?」
「どないなってんねん!」
「え?」
「雄琴ちゃうやん。」
「ホンマですか?」

 これまで専務だということで、俺たちのところまで降りてきていない情報を提供してくれる心強い存在だと思って付き合ってきたけど、少し認識を改めた方が良いかもしれない。基本的には良い奴だし、話していても面白いから、ひとりの人間としては好きなんだけど、情報源としては少し格下げしておこう。

「田附さん、おかえりなっさい。」
「おう。」
「直帰じゃなかったんでっすね。」
「うん。」
「今日、ケイコちゃんの送別会なんでっすけど。」
「そうそう、俺も参加するつもりやで。」

 ケイコちゃんっていうのは、うちの店で二年くらい前から働いてくれていた女の子で、四天王には届かないけど、その次くらいのグループに属していた人気のあるメンバーのひとりだ。うちのスタッフは誰も気づいていなかったんだけど、足繁く通う常連客のひとりと長らく交際していて、今回めでたくゴールインすることを決めたらしい。

 円満に寿退店する女の子を、みんなで祝うことによって、店に残る女の子たちに対して「安心して働ける店」だとか「去っていく子にも優しい店」というような印象を与えることが和臣の狙いなんだろう。こういう数少ないチャンスを逃さずに、しっかりと準備を進めるあたりは、さすがプリプリの店長候補であり、俺の後継者に指名した男だけのことはある。

「あ、田附さんも、参加でっすか?」
「うん。もちろん。」
「じゃあ、ひとつ頼んで良いでっすか?」
「なに?」
「ケイコちゃんと先に会場に行っててもらって良いでっすか?」

 俺が参加すると聞いて、「わざわざ田附さんが参加するほどのことでもない。」と、上司を気遣う言葉が返ってくるのかと思ったら、本日の主役の送迎を命じられた。さすが和臣だ。仕方がないから、ケイコちゃんと一緒に店を出て、俺のクルマで会場へと向かう。

「俺が初めて東京に出たときにな。」
「あ、マイちゃんですよね。」
「あれ、なんで知ってんの?」
「店長に聞きましたよ。」
「そうか。寿退店といえばマイちゃんを思い出すわ。」
「バラの花束ですよね。」
「俺、そんな話もしたっけ。」

 そういえば、ケイコちゃんが応募してきた時の面接も、その後の実技講習も、俺が担当した。かなり大人しい性格の子で、ヘルスとはいえ風俗で働けるのかと心配になったけど、本人は真剣に仕事に取り組んでいて、些細なことでも頻繁に相談を受けた。だから、マイのことも、そんな相談のときに話したのだろう。

 マイと初めて会ったのは、俺が大学受験のために新宿のホテルに宿泊していた時のことだから、既に二十年以上も昔の話だ。大学に進学してからも、わざわざ歌舞伎町まで通って、ほんまに夢中やったな。ファッションヘルスに憧れて上京した学生が、いつの間にか地元のファッションヘルスの店長をしているんだから、人生って何があるか分からへん。

 そしてさらに、今度は学生時代を過ごした松山で、ファッションヘルスの立ち上げを任されそうになっているんだから、これからも俺の人生には、色んな事がありそうだ。

「ただいま。」
「あれ、おかえり。今日は早いね。」
「サエコ、俺、第二の故郷の松山で仕事するかも。」


sponsored link

down

コメントする