この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百九十話「和臣」

time 2017/02/16

第百九十話「和臣」

 ベッドに入ったのが朝の七時過ぎだったから、午後から出勤にしようかと思ったけど、今日は店長候補のアイツの初めての勤務日だから、どうしても朝から行かなければならない。少しくらい寝たいと思いつつも、ミカとのカーセックスを思い出したら妙に興奮してきて、うまく寝付けなかった。

「おはよう。」
「おはようございます、部長。」
「おう。」
「おはようございまっす!田附さん。」
「う、うん。」

 吉田のあとに続いて俺に挨拶をしたのが、店長候補の和臣だ。苗字は確か山本だったはず。吉田に対して、しっかりと紹介をしてあげるつもりだったけど、既に二人は店の営業に関することを話し始めていて、もう大丈夫そうだから放っておくことにした。俺、わざわざ朝から出勤してくる意味がなかったやん。

 店長候補として店に迎え入れた和臣は、去年の十一月ごろに前田とか遅番の女の子たちと一緒に飲みに行ったときに偶然入ったホストクラブ風の飲み屋で働いていた男で、女の子への接し方が上手いし、かといって俺のことも放置せずにケアするし、ひとりで十人分くらいの活躍をしているのを見て、「風俗で働く気ない?」って誘ってみたら、その場では興味のない素振りをみせていたものの、年が明けてから「店を辞めたんで、連絡しました。」と電話がかかって来た。こういうしっかりと筋を通すようなところも、気に入った。

「吉田先輩、コンドームって置かないんですっか?」
「無いよ、うちはファッションヘルスやから。」
「え?そうなんですっか。」
「コンドームが置いてあると、本番行為をしてると思われるから。」
「なるほど。勉強になりまっす!先輩!」
「あ、うん。気になることは、なんでも聞いて。」

 新人のアルバイトには、かなり厳しい指導をする吉田が、和臣には初日から随分と優しい。和臣の方が年上だし、俺から事前に店長候補だと言ってあるから、吉田が気を使っているというのもあるけど、やっぱり和臣の立ち回り方が上手いんだと思う。

「田附さん。すみまっせん!」
「ん?え、なに?」
「ケータイが鳴ってまっす。」
「あ、うん。ありがとう。」

 気づいたら寝てしまっていた。変な体勢で寝ていたから、メッチャ首が痛い。腰も痛い。枕代わりに頭を乗せていた右腕が痺れていて携帯を持ち上げられない。ちょっと居眠りをしていただけで、こんなに身体の具合が悪いって、俺はもうオッサンになってもうたんかな。着信のボタンを押そうと思ったら手を滑らせて、電話を床に落としてるし、もう俺、長くないかもしれんな。

「もしもし、田附です。」
「栗橋ですけど。」
「うん、クリちゃん、どないしたん?」
「札幌、しんどいです。」

 クリちゃんにしては珍しく、特に用件があるわけでもないのに、ただ愚痴というか苦労話をしたいだけの電話を掛けてきた。本人も言ってる通り、かなりしんどいらしい。俺たちの本拠地である京都も、かなり特殊な慣習や風習が多い街だけど、札幌でも土地柄による違いのようなものが目立って、なかなか思うように進んでいないようだ。

 そういえば、すすきの第一号店の出資は、俺ら三人の部長が一割ずつで、現場を担当するクリちゃんが二割、そして残りの半分を会長が出資する形になった。俺たちより多めに出しているクリちゃんとしては、出来るだけ早く店をオープンさせて、出来るだけ早く安定した利益を生む店舗に仕上げなければならない。

「たまには、遊びに来てくださいね。」
「うん、そやな。」
「全然、来る気がないでしょ。」
「いや、また、カニの季節になったら行くって。」
「もう酷いなぁ。」

 俺と話をして、ちょっと元気になったみたいで良かった。会長や俺たちに注目されているから、やりにくいとは思うけど、北の大地で何とか頑張ってほしい。


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