この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百八十九話「まるで」

time 2017/02/15

第百八十九話「まるで」

 おそらく二時間ぐらいだろうと思って、男のマンションから五十メートルくらいのファミレスに入って時間を潰しているんだけど、既に三時間が過ぎようとしているのに、全く連絡が来ない。もしかして、俺って、忘れられてるんとちゃうの。大丈夫かな。

「お客様、コーヒーのお替りはいかがですか?」
「いや、もうお腹がタプタプやわ。」
「そうですか。かしこまりました。」
「それにしても、メッチャかわいいですね。」
「え?」
「あ、いや、何でもないです。」

 もうナンパするような元気も残ってない。ただ、俺が座っている真後ろの席が、男三人と女の子一人という組み合わせの大学生っぽい四人組で、絶え間なく続く会話が、気になって仕方がない。

 特に、紅一点の女の子のリアクションが、まるで小説さえ書いていないのにノーベル文学賞を受賞したという電話連絡を受けたかのような、まるで自宅の玄関を開けたら目の前に南国のビーチリゾートが広がっていたかのような、まるでこのファミレスに突然、イナバウアーをしながら荒川静香が滑り込んできたかのような、やたら大袈裟なリアクションで、とても耳障りだ。

 俺は、ひとりで村上春樹を読みながら、まるで戦争博物館で三十分くらいのショートムービーを見終えたばかりのような気分で、まるで五千年間ずっとそこにある大きな岩のように静かに、まるでこのファミレスに突然、しかめっ面をしたミカが飛び込んできたかのように・・・

「って、ほんまに飛び込んできたやん!」
「はぁ?」
「え?」
「メッセージしたのに、見てよ。」
「あ、ごめん。」
「なにか食べて良い?」
「もちろん、ええよ。」

 こんな風に、目の前でミカが何かを食べているという光景が、なんだか遥か昔のことのように懐かしく感じる。真夜中にカツカレーを注文して、さらにチョコレートパフェも頼んで、ほとんど無言のままで完食したミカは、「よし、気を取り直して、京都に帰ろう。」と言った。なにの気を取り直すのか分からないけど「よし帰ろう。」と返して、四時間ぶりくらいに席を立った。

 クルマに乗り込んでも、ミカは相変わらず無言のままだけど、いつものように携帯電話でメッセージのやりとりをするわけでもなく、ただ外の景色を眺めている。京都南インターから高速道路を降りて、市内へ向けて走っていたら、ミカが「ちょっと、とまれるかな?」と言った。

「泊まれるよ。」
「じゃあ、とめて。」
「はぁ、うちに泊まるってこと?」
「違うよ。クルマを停めて。」
「あ、そういうことか。」
「うちに泊まるって何よ、もう!」

 ただの俺の勘違いに、ミカが大声で笑った。どちらかというと笑われているんだけど、久しぶりにミカの笑い声を聞けて、すごく嬉しい。

「エンジン切って。」
「はい。」
「シートベルト外して。」
「はい。」
「シートを目一杯、倒して。」
「はい。」

 次の瞬間、助手席から飛びかかるようにミカが俺の上にまたがってきて、首元を抱きかかえるように持ち上げたかと思うと、俺の口の中に舌を捻じ込んできた。あまりに急なことに、最初は呆気にとられてしまったけど、気を取り直して、ミカに応じた。アッシー君の分際で、こんなことをしても良いんですかという不道徳感に興奮しながら、ふたり共が裸同然の状態になって、一切の言葉を交わさないままに、結局、最後までやった。まるで動物のように。

「三か月ぶりくらいかな。」
「四か月ちゃう?」
「そうかも。」
「めっちゃ気持ちよかった。」
「うん。」
「突然のことで、びっくりしたけど。」
「私も。」
「え?」
「やっぱりイケメンでも、エッチが下手だと意味ない。」
「下手やったん?」
「うん、我慢したけど、無理。」
「そうやったんや。」
「私には、やっぱりヒロキしか居ないのかも。」


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