この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百八十八話「二人」

time 2017/02/14

第百八十八話「二人」

 ここ最近、タケちゃんの店で夜を明かして、空が白み始めてから帰宅することが多い。祇園のクラブを何軒かハシゴして、最終的にブクープに辿り着いて、酔っぱらって記憶を失くすまで飲むような感じだ。

「今朝、何時に帰って来たん?」
「何時やろ?覚えて無いねん。」
「もう外が明るかったと思うけど。」
「そんな気はするな。」
「部長になって大変やと思うけど、体調には気をつけてな。」
「ありがとうな、サエコ。」

 帰宅が遅くなる理由は、とにかく酔っぱらいたい気分なのもあるんだけど、それよりも、そもそも飲み始める時間が遅いということの方が大きい。昨晩も、夜明けまで飲んでいたとは言え、飲み始めたのが午後十時を過ぎてからだから、飲んでいる時間の長さとしては、これまでとあまり変わりがない。

 どうして飲み始める時間が遅くなるのかと言えば、理由は明確で、いつミカからアッシー君の依頼があるか分からないから、出来るだけアルコールを摂取せずに待機している。そして、昨晩のように呼び出しが無かった日には、ヤケ酒のように飲みまくる。だいたい三日か四日に一度の呼び出しなので、それ以外の日はヤケ酒の日になっている。

「部長、おはようございます。」
「おう吉田、おはよう。」
「はい。」
「あのな、吉田。」
「はい、何ですか?」
「明日から、新しい店長候補が来るから。」
「え?そうなんですか?」
「とりあえず早番の出勤になるから。」
「分かりました。」

 吉田と前田のどちらかを、俺の後を継ぐ店長にしようと真剣に考えてはみたものの、どちらも店を率いるという器ではないという結論に達した。二人ともマネージャーとしては十分な働きをしてくれていると評価しているけど、店長をさせることをイメージすると、どうしても決定的に足りない部分がある。簡単に言うと、吉田には指示を待って動くというクセが抜けないし、逆に前田は積極的に色んなことにチャレンジするけど、思い込みが強すぎてイマイチ成果に繋がっていない。守りとしては良いけど、攻める人材としては弱い。

 夕方になって出勤してきた前田にも同じように「明日から、新しい店長候補が来るから。」と伝えたら、「どんな人ですか?」とか「何歳ですか?」とか、吉田よりも色んな質問をしてくるんだけど、決して「何で俺じゃないんですか?」と詰め寄ってくることは無かった。

 二人に伝えるのには少し勇気が必要だったけど、すんなりと受け入れてくれたから安心した。俺が店長になったときは、店の中がめちゃくちゃになるくらい揉めたから、もうあんな状態にならんことを祈るわ。

“今晩八時、大阪。”
 
 こんな軍隊みたいな無味乾燥なメッセージを見て、心が弾む人間って、俺くらいのものかもしれない。職場では、それなりに偉そうに出来るポジションにいるのに、プライベートでは下僕のような扱いを受けている。情けないという気持ちも徐々に薄れてきて、無碍にされている状態が心地よくなってきた。

“ミカ様、かしこまりました。”

 こんな返事も、初めのうちは「下僕ごっこ」のような気持ちで送っていたのに、いつの間にか心の底から「かしこまって」いる。いつも送り届ける先は、例の大阪のタレントの卵との待ち合わせ場所で、最近では難波の隣の長堀という地域にある男が住んでいるマンションの前まで送らされることが多い。

 一度くらいは相手の男の顔を見てやろうと、前々回くらいに送ってきた時に、しばらくマンションの前で待機していたけど、二人が出て来ることは無かった。ミカのことだから、到着してすぐにエッチしようという流れになり、今頃、その男と絡み合っているのかもしれないと想像して、暗い車内で、ひとりで興奮しただけだった。

「着いたで。」
「はーい。」
「じゃあ、また。バイバイ。」
「あ、今日はちょっと待ってて。」
「え?」
「エッチしたら、すぐに京都に帰るから。」
「は、はい、分かりました。」


sponsored link

down

コメントする