この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百八十七話「時代遅れ」

time 2017/02/13

第百八十七話「時代遅れ」

 きっとアッシー君という口実で俺を呼び出して、そのうち「冗談だよ。」って言って、大阪で美味しいものを一緒に食べて、もしかしたら初詣にも行って、それからラブホテルに向かうっていう流れになるんだろうと思っていたけど、全く予想した流れとは別の方向に会話が進んでいる。

「御堂筋でええの?」
「そう、スポタカの辺りで。」
「そこで待ち合わせなん?」
「うん、アメリカ村の喫茶店で待ち合わせ。」
「そうなんや。」

 これからデートらしい。嘘か本当か知らないけど、タレントかアイドルの卵みたいな奴が相手らしい。大阪に住んでいる男で、今晩はお泊りするから、送り届けるだけで俺の任務は完了らしい。もしかしたら、京都に戻る時も呼ぶかもしれないけど、その場合には改めて連絡がくるらしい。

「大阪は正月から活気あるなぁ。」
「うん。」
「寒いのに、めっちゃ人がおるやん。」
「うん。」

 おそらくデートの相手とのメッセージのやりとりをしているミカは、ほとんど俺の話を聞いてくれていない。わざわざ大阪まで送らせておいて、俺のことはそっちのけでメッセージに夢中って、どういうことやねん。いや、そもそも、俺が自分で言い出したこととは言え、本当に送り迎えだけのアッシー君をさせるって、どういうことやねん。こんなん、どう考えても、ありえへんやろ。

「はい、着いたで。」
「あ、ここか。」
「そう、この右の建物がスポタカやで。」
「あ、スポーツタカハシって書いてる。」
「うん、間違いないで。」
「じゃあ、また連絡するかも。」
「分かった。バイバーイ。」

 今の若い世代の子たちは、バブル当時に流行ったアッシー君なんて言葉を知らないかもしれない。でも、今日の俺の姿を見てくれれば、アッシー君というものが何なのか、すぐに理解してもらえるだろう。これこそが、まさに絵に描いたようなアッシー君やから。

 ただ、アッシー君として女の子をクルマで送迎しているだけで、何が楽しいのかという疑問は残る。バブル当時でさえ、同じような疑問の声が数多くあった。そして、二十年くらい時代遅れだけど、実際にアッシー君をやってみた結果、全く面白くないことが分かった。なんで俺、大阪から京都まで、ひとりで帰らなアカンねん。こんなん嫌や。

「もしもし、ヒロキですけど。」
「え?」
「ほら、こないだ京都駅で声を掛けた・・・」
「あ、ナンパの人?」
「そうそう。今から飯でも、どうかなって。」
「ごめんなさい。先約ありです。」

「もしもし、ヒロキですけど。」
「はい?」
「ほら、こないだ四条河原町で声を掛けた・・・」
「あ、ナンパしてきた人?」
「そうそう。今から飯でも、どうかなって。」
「こういう電話、困ります。」

「もしもし、ヒロキですけど。」
「だれ?」
「ほら、こないだ桂のコンビニの前で声を掛けた・・・」
「あ、二人の子持ちの?」
「そうそう。今から飯でも、どうかなって。」
「もう食べちゃったよ。また今度ね。」

 京都までの帰り道、今晩のお相手を見つけたいと思って思考を巡らせ、女の子の顔を思い出したらクルマを側道に停車させて、とりあえず電話してみるというのを繰り返したけど、見事に全敗だった。こんなことをしていたら、京都に戻るのに二時間半も掛かった。

「ただいま。」
「おかえり。えらい早いね。」
「店がバタバタしてて疲れた。」
「ご飯は?食べてきた?」
「いや、誰も一緒に行ってくれへんから。」
「え?」
「ううん。なんでもないよ。」
「なにか作るから、ちょっと待ってて。」

 今晩は、サエコの優しさが身に染みる。やっぱり家族って、ええもんやな。俺、もう浮気しない、ゼッタイ。こんな寂しい気持ちになるのは嫌やからな。もう、他の女なんか探すのにも疲れたわ。俺には、もう他の女なんか必要ないねん、ミカ以外には。


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