この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百七十九話「札幌」

time 2017/02/01

第百七十九話「札幌」

 空港からJRに乗って、まずは札幌市内へと向かう。たぶん白樺の木だと思うけど、車窓から見える木々と、その先に広がる大自然が、北海道に来たことを実感させる。京都でも少し郊外に出れば美しい山々があるんだけど、こんな雄大な自然の迫力を感じることはない。やっぱり北海道も、ええなあ。

「すすきのインまで、お願いします。」
「はい、かしこまりました。」
「近いですよね?」
「はい、十分もかかりません。」
「それにしても、えらい寒いですねぇ。」
「そうです。ここ三日ほど随分と冷えます。」
「これから、どんどん寒なるんですよね?」
「そうです。寒くなります。」
「寒いと大変でしょ。」
「この年齢になると、こわいですね。」
「こわいんですか?」
「はい、こわいです。こわいです。」

 たしかに、北海道の冬の寒さは、関西に住んでいる人間には理解できない恐ろしさがあるのだろう。あ、違う。北海道では、身体がダルいことを「こわい」って言うんや。スキャンダルのシェリーちゃんが、そんなことを言ってた気がする。そういえば、シェリーちゃんって今、どこで何をしてるんやろ。

「もしもし、田附やけど。」
「は、はい。」
「あ、ヒロキ。ヒロキです。」
「え?」
「シェリーちゃん、久しぶり。」
「はぁ?」
「あ、すみません。間違いです。」

 もしかしたら北海道に帰っていて、どこかで会えるかもしれないと期待したけど、番号自体が変わってしまっていた。シェリーちゃんのアパートに遊びに行っていたのは、サエコと付き合い始めるよりも数年前の話だから、もう随分と経ってるし、他のお客さんにも教えていた番号だから、変わっていても当然か。なんか寂しいけど。

 自分の気持ちが落ち込んだからか、札幌市内の景色も、どこか物悲しく感じる。すすきののネオンも、昼間はやはり物悲しい。ホテルは、すすきのど真ん中だと聞いているから、たぶんもうすぐ到着だろう。そろそろ降りる準備をしようと、携帯電話をポケットに入れようとしたとき、ブルブルっと振動するのを感じた。もしかしたらと期待しながら画面を見てみると、本当にもしかしたらで、ミカからのメッセージだ。

「はい、こちらです。」
「あ、はい。」
「八百二十円です。」
「はい、ちょっと待ってくださいね。」

 空港から市内に来ただけなのに意外と高いなと思いつつも、早くメッセージの内容を見たいから、千円札を手渡して、急いでタクシーを降りる。ホテルのベルボーイに荷物を預けて、フロントに向かって歩きながら、メッセージを開いてみると「どこに出張か知らないけど、お仕事がんばってね。」という内容。

 昨日も三通くらい謝罪の文面を送ったし、さっきも空港に着いてタクシー待ちの列に並びながら「京都に帰ったら、一緒に食事に行きたいです。お願い!」というメッセージを送っていたから、少しは機嫌を直してくれたようだ。

「あ、田附で予約が入ってると思いますけど。」
「タヅケさまですね。少々お待ちください。」
「はい。」
「リバティの田附さまで宜しいですか?」
「え、あ、そうです。」
「は、はい、かしこまりました。」

 まだ会社の登記も何も出来ていないけど、俺の個人会社の名前で予約が入っていて驚いた。俺が驚いているのを感じ取ったのか、フロントのかわいらしい女の子も、ちょっと疑いの目で俺を見てるやん。あまり深く考えずにつけた社名だけど、これからは「リバティの田附」って名乗ったり、呼ばれたりすることも多いだろうから、少しずつ慣れていかないといけない。

 会長の秘密主義のこだわりのために、メンバー全員が別々の便で北海道入りするから、五人が揃うのは、夕方過ぎくらいになる。部屋でゆっくりと風呂でも入りながら、みんなが到着するのを待つのも良いけど、せっかくだから札幌の街を探索した方が良いかな。

「今回は、ご出張ですか?」
「はい、そうなんですよ。」
「札幌は、頻繁に来られますか?」
「いや、中学生のころ以来なんですよ。」
「へぇ、そうでしたか。」
「今晩、札幌の街を案内してもらえませんか?」
「お客様、お部屋のご準備ができました。ごゆっくり。」


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