この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百七十八話「秘密主義」

time 2017/01/31

第百七十八話「秘密主義」

 これから京都を離れることが増えそうなので、部長に昇格した報告を兼ねて、伏見稲荷大社へ出掛けた。俺が好き勝手なことばかりしながらも、楽しくて上々の人生を送れているのは、ここのキツネさんが守ってくれているからだ。あまりお願いごとをしたくはないんだけど、出来れば、ミカの件だけは何とかして欲しいという気持ちはある。

 俺も、まさか急に明後日から札幌に行くことになるとは、夢にも思っていなかったから、会長からの電話が切れた直後に、ミカに電話をした。

「ミカ?俺やけど。」
「どうしたの?ヒロキ。」
「あのな、明後日、急に仕事が入ってもうて・・・。」
「え?そうなんだね。」
「ごめん。怒ってる?」
「うん、誰でも怒るよね、普通。」

 メッセージよりも少しはマシな結果になるのではないかと電話をかけてみたんだけど、文章として上手く書くことが出来ないものは、言葉でも上手くまとまらない。逆に、ミカの怒りの感情がモロに伝わってきて、余計にビビってしまって言葉にならない。

「遅い時間なら会えるの?」
「いや、ごめん。出張やねん。」
「はぁ?出張?」
「そうやねん。」
「出張って?どこに行くの?」
「ごめん、それは言われへん。」
「はぁ?」

 先日の会議の席で、会長から「これからの行動は、従業員とか家族とかでも最小限の人間にしか言うなよ。秘密厳守や。」と言われているから、風俗業界とは全く関係がないとはいえ、ミカにさえも視察先に関しては言えない。そして、この「はぁ?」を最後に電話が切れ、翌日の今日になっても、俺からのメッセージなどに一切反応してくれてない状態になっている。

「家を出るときは、スーツ?」
「そやな、着ていくわ。」
「三泊で良いんかな?」
「まだ分からんねん。」
「じゃあ、下着は多めに入れとくな。」
「うん。」

 俺の初めての出張というイベントに、なぜかサエコが張り切っている。海外旅行に行くときにしか使ったことがないコロコロの付いたバッグを出してきて、荷造り作業をしてくれた。ホテルに泊まるから必要ないと言っているのに、携帯用の歯ブラシセットを詰め込まれたりして、無駄に荷物が増えているけど、まぁ仕方ないと諦める。

 サエコは、俺が部長になって出張することが、普通のサラリーマンのようでカッコいいと、心から喜んでくれているようで、出発当日もわざわざ京都駅まで二人の娘を連れて、見送りに来てくれた。ずっと俺の隣で「飛行機のチケット、持ってる?」とか、「胃薬を入れるの忘れたけど、大丈夫かな」とか、優しいというより、うるさい。

「しっかり頑張って来てくださいよ。」
「もう分かったって。」
「よっ!部長!」
「もうええわ。」
「いってらっしゃい!」

 今回の視察旅行は、メンバー五人が札幌のホテルで現地集合することになっている。ピチピチグループの上層部として、それなりに業界内で知られている面子が、揃いも揃って京都を出ていくところを目撃されたら、他所に情報が漏れる可能性があると、秘密主義にこだわる会長が決めたことだ。

 職場の人間と一緒に行動するのが苦手な俺としては、この方が気楽だ。静かにひとりで本を読む時間なんて、ほとんどない生活を送っているから、飛行機の待ち時間さえも、とても贅沢な時間に思える。みんなでワイワイ騒いでいるのも楽しいけど、ひとりでゆっくりする時間も、大切なのかもしれない。

「お客様、札幌行きではございませんか?」
「え、あ、はい。そうです。」
「お客様、お急ぎご搭乗ください。」
「あ、すみません。」

 いつのまにかウトウトと居眠りしていたみたいで、搭乗のアナウンスにも全く気付かなかった。それにしても、俺を呼びに来てくれたスタッフの女の子が、めっちゃ可愛い。

「めっちゃ可愛いですね。」
「え?」
「あの、これ、俺の名刺です。」
「はぁ?」
「今度、一緒に食事に行きませんか?」
「お客様、お急ぎご搭乗ください。いってらっしゃいませ。」


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