この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百七十四話「珍説」

time 2017/01/25

第百七十四話「珍説」

 姫路城朝帰り事件から二週間ほど、夜遊びもほどほどに大人しく過ごしている。もちろん、ミカから連絡があればデートするんだけど、それ以外の日には出来るだけ、早めに帰宅するようにしている。反省している素振りを見せれば、何を反省しているのかと問い詰められるので、ただ具合が悪いから夜遊びを控えているという理由で。

「こんな時間にヒロキが家におると、何か変やな。」
「たまには、ええなぁ。」
「早く調子良くなってな。」
「そうやな。」

 さすがに俺が週の半分以上をアルコール無しで過ごしているのを見て、サエコも俺が体調が悪いと信じ込んでいるようだ。たまには娘たちと遊ぶ時間を作るのも良いかもしれん。

「明日も早く帰ってくる?」
「うん、何もないから直帰するわ。」
「それやったら、手巻き寿司にするな。」
「ええやん、楽しみやわ。」

 あくまで仮病ではあるけど、ずっと遊び続けている疲れが溜まっていたのは事実で、ここ最近の自粛生活によって、実際に体調が良くなってきているのが実感できる。あまりに元気だから今からでも飲みに出掛けたいところだけど、ここは我慢が必要だ。十分に睡眠をとって、元気に目覚めて出勤する生活も、たまには良い。とにかくサエコがご機嫌なのが良い。

「いってらっしゃい。」
「うん、行ってきます。」
「しっかり仕事を頑張ってな。」
「おう、任せとき。」
「今晩は、手巻き寿司やからね。」
「はいはい、分かってるって。」

 店に着いて、まずは昨日の売り上げのチェックから今日の仕事を始めようとデスクに座った瞬間、携帯電話が鳴った。こんな午前の早い時間に誰からかと思ったら、石川店長だ。面倒くさそうだから出ないで放っておいたら、二分間くらい呼び出し音が鳴り続いてから切れた。でも、ほとんど間髪を入れずに呼び出し音が鳴り始めたので、仕方なく電話に出た。

「何回も電話かけてきて、どないしたん?」
「はぁ、田附。お前、まだ寝てんのか?」
「え、あ、会長。おはようございます。」
「おはよう。」
「すみません、人違いして電話に出てまして、あの・・・」
「そんなん、ええねん。今日二時から店長会議や。」
「ええ、今日ですか?」

 石川店長だと思い込んで出た電話の相手が、まさかの会長で、しかも今日の午後二時から緊急の店長会議。用件だけ伝えたら、すぐに電話を切ってしまうのは相変わらずだけど、この一瞬で起こった出来事に、まだ頭が追い付いていない。

 とりあえず、全く状況が分からないから、少し気持ちを落ち着けて、しっかりと番号を確認してから、クリちゃんに電話してみる。クリちゃんは専務だから、きっと何か知っているだろうと期待したんだけど、「俺もさっき電話がかかってきまして・・・」と、俺と全く同じ状態だった。

 同じく会長からの電話を受けた鮫島店長が、珍しくうちのオフィスに姿を見せて、「急に何の会議でしょうか?」と、俺なら何か知ってるんじゃないかと期待して聞いてくれるんだけど、何も答えようが無くて、ふたりして「何やろなぁ。」「何ですかねぇ。」と顔を見合わせるだけだった。

 鮫島店長がオフィスを出て行った後で、そういえば会長からの電話の前に石川店長からの着信があったんだと思い出して、もしかしたら店長会議の件だったのかもしれないと、電話をかけてみた。やはり石川店長も他の面々と同じく、今日の店長会議の内容については何も知らないんだけど、「オンナに溺れてもうて、俺は京都を出ていくからな。って言い出すんとちゃいますかね。」と石川店長らしい珍説を熱弁し始めたから、静かに電話を切った。

 たしかに会長もオンナが好きだけど、それにも増して仕事人間だ。だから、どれだけオンナに夢中になったところで、仕事をおろそかにするような人じゃない。単なる石川店長の妄想に違いないと自分に言い聞かせて、気持ちを切り替えて席についたのに、会議の冒頭、いきなり会長が発した言葉に、お茶を吹き出しそうになった。

「俺、京都を出ていくことに決めた。」


sponsored link

down

コメントする