この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百七十一話「ブルブル」

time 2017/01/20

第百七十一話「ブルブル」

 史学科の卒業であることを自慢げに話すだけあって、完全にミカのペースの姫路城巡りは、思いのほか、楽しめた。どうしても天守閣や城壁ばかりに目がいってしまいがちだけど、ミカは普通の日本庭園というか広場のようなところで急に足を止めて、「姫路城からの出陣のときには、ここに猛者たちが集まって、出陣の雄叫びをあげたんだよ。」などと、ひとりで来たら絶対に興味を持たないようなところの解説も、熱心にしてくれた。

「さすがは大学で勉強しただけあるな。」
「そう?」
「当時の人々の姿を想像できて、面白かったで。」
「良かった。退屈してたらどうしようかと思った。」
「全然。めっちゃ良かった。」

 城の見物を終えてからの予定は、特に決めていなかったけど、せっかく兵庫県まで来たんだから、京都には無いものを食べたいという話になり、神戸には中華街があることを思い出して、どんな店があるのか詳しくないけど、とりあえず行ってみようということになった。

 南京町を歩いていると、学生時代には何度も行った横浜中華街を思い出す。規模だけを比べれば、やっぱり横浜の方が大きいように思うけど、街のあちこちに漂う香りが同じで、神戸の方が活気があるように感じる。俺がノスタルジックな想いに浸っているのに、マナーモードにしてある俺の携帯電話がブルブルと震えているのが、気になって仕方がない。

「ねぇ?どう?」
「え?なになに?ゴメン、聞いてなかった。」
「もう、ここの店、どうかなって。」
「まさに中華街って感じで、ええやん。」
「うん。そうだよね。」

 店に入った瞬間、この店は絶対に美味いと確信した。アキコとも一緒に行ったことがある俺のお気に入りの横浜の店と、少し雰囲気が似ているし、他のお客さんのテーブルに並んでいる皿を見ても、まさに中華っていう感じのものばかりだ。

「フカヒレ、行きます!」
「ええで。」
「上海蟹、行きます!」
「ええで。」
「それから、あとは・・・」
「麻婆豆腐、ひとつ。」
「いいね。」

 全く前情報なしで入った店だけど、見事に当たりだった。小籠包とか、回鍋肉とか、京都でも食べられるような普通の中華料理でも、やっぱり本場は違うと思える味で、かなり満足できた。もう、ポケットの中でブルブルと震えている携帯電話が、どうでも良いと思えるくらいに美味しかった。

「ほな、京都に向けて出発やで。」
「もう帰るの?」
「はぁ?」
「まだ、帰りたくない!」

 ミカの口から、こんな言葉が出るなんて、正直、めっちゃ驚いた。普段から女の子らしいところは、とても女の子らしいんだけど、こんな感じのワガママというか、オネダリというか、こういう類のことを言われたことがない。やっぱり、昼間にデートをするのと、夜だけの付き合いは、全くの別物やな。

「じゃあ、せっかくやし、神戸のホテルに行こうか?」
「うん。昼も夜も、楽しもう。」
「ええな、それ!」

 心の奥底では、そろそろ早く自宅に戻って「店でトラブルがあったから、ちょっと仕事してきた。」という言い訳をするシミュレーションをしていたんだけど、こんな可愛いモードのミカを見たら、そんな思いも吹き飛んだ。まぁ、このまま帰っても、エッチをしてから帰っても、大して変わらんし、気持ちいい方に惹かれるのは当然のことやろ。

「今日は、めっちゃ楽しかったで。」
「うん、私も思ってたよりも、凄く楽しかった。」
「エッチも良かった。」
「同じく!たまには違う場所も良いね。」
「そやな。」

 朝から待ち合わせをして、途中でツタヤに寄って、明石で美味しい寿司を食って、姫路城を歩き回って散策して、思いがけずメッチャうまい中華も食べられて、そのままの勢いで神戸のホテルに入って、いつもよりもテンションの高いミカとエッチして、それから、ちょっとだけ仮眠してから京都に帰ろうと思っていたら、午前四時。

「ええええええ?」
「ううん。どうしたの?」
「四時!」
「はぁ?」
「朝の四時!」
「あーあ、寝ちゃったね。」
「ウソやん。まじか!」

 もしかしたら自分の腕時計が壊れているのかもしれないという淡い期待を込めて、携帯電話の時計を確認しようと思って、青ざめた。サエコからの着信が、死ぬほど入ってるやん。しかも、最後の着信が十五分前ってことは、まだ起きて俺のことを待ってるってこと?

 これはヤバい、どないしよ。


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