この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百七十話「寄り道」

time 2017/01/19

第百七十話「寄り道」

 ほぼ予定通りの時間に、兵庫県に入り、順調に神戸を通過する。姫路まで三十五キロという看板を見て、助手席のミカが「まもなく、姫路!姫路!」と、相変わらずのハイテンションで喜んでいるけど、明石西という出口から高速を降りる。

「あれ?どうしたの?」
「ちょっと寄り道するで。」
「なになに?」
「すぐに着くから、お楽しみに。」
「う、うん。」

 京都から姫路へと真っ直ぐに向かうのなら、内陸部を走っている山陽自動車道を使った方が、距離も短いし、車の流れもスムーズだ。でも、あえて大阪や神戸みたいな大都市を通り抜けて、大阪湾に沿うような道を選んで来たのには、もちろん理由がある。あ、ここだ。

「え?お寿司屋さん?」
「そう、明石と言えば、ここらしいで。」
「へぇ、楽しみ。」
「よし、行こ、行こ。」

 月イチくらいの頻度で通っている祇園の割烹の大将が以前、神戸の方で働いていたと話をしていたのを思い出して、「今度、姫路の方に行くねんけど、どこかオススメの店ある?」と聞いたら、真っ先に出て来たのが、この寿司屋だった。いつも遊びに来てくれと言われているけど、なかなか明石まで出向く機会が無いから、是非、俺の代わりに行って来てくれと、わざわざ大将が電話をして、ランチの予約を入れてくれた。

「すみません、田附で予約を・・・」
「お待ちしておりました。京都から、遠いところを、わざわざ。」
「いえいえ。」
「カウンター席をご用意しております。」

 割烹の大将からは、とにかく穴子が美味しいという話を聞いて来たけど、タコも美味いし、ヒラメも美味いし、出されるものが何でも美味い。今のご時世、流通がしっかりしているから、京都にも満足できる寿司屋がいくつもあるけど、やっぱり海の近くの街で食べる寿司は美味いと、改めて思った。

「こんな美味しいお寿司が食べられるなんて!」
「ほんまに最高やな。」
「うん。ありがとう、ヒロキ。」
「今度、一緒に大将に、お礼を言いに行こ。」
「そうだね。」
「もう満足した?」
「はい!かなり満足じゃ。」
「では、ミカ姫。いざ城に参りましょう。」

 好きな音楽を聞けば機嫌が良くなるし、美味しい寿司を食べれば機嫌が良くなる。もしかしたらミカって、かなり分かりやすい人間なのかもしれない。付き合い始めた当初は、俺に不信感を抱いていたから、ほとんど個人的なことを教えてくれなくて、謎に包まれた女って感じだったけど、今では、何を聞いても答えが返ってくるようになった。

 この調子なら、すぐにセフレから恋人同士へと昇格できるかもしれない。そう、今日という日は、俺とミカにとって、かなり重要な日になるはずだ。だから、さっきから携帯電話が鳴っていて、サエコっていう表示が出ているんだけど、ふたりの会話を止めてまで、電話に出ている余裕などない。

「あ、わたし、クルマに乗る前に、トイレ行きたい。」
「おう、先に外に出て、待ってるわ。」

「もしもし、サエコ?」
「大丈夫?」
「え?」
「ずっと電話しててんで。」
「検査を受けてたから、ごめんごめん。」
「そうか。で、どうなん?」
「あ、また先生が来たから、あとで電話するわ。」

「お待たせしました!」
「よし、姫路まで、あとちょっとやで!」
「はーい。」

 高速道路に戻ると、姫路までの距離を書いた看板が頻繁に設置されていて、それを見つけるたびにミカが「残り三十キロ!」「残り二十五キロ!」「残り十三キロ!」と大声でカウントダウンする。ミカのテンションが高いと、俺までつられてテンションが上がる。残り十キロの表示からは、俺も一緒になって大声でカウントダウンをした。

「なんだか恋人同士みたい!」
「え?なんて?」
「私たち、恋人同士みたい!」
「ほんまに?」
「ただのセフレ同士なのにね!」


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