この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百六十八話「プリンとヨーグルト」

time 2017/01/17

第百六十八話「プリンとヨーグルト」

 昨日の夜って、何を食べたんだっけ。とにかく朝から腹が痛い。ちょっと熱もあるみたいだ。吉田が気遣ってくれて、食欲が無くても何かを口に入れた方が良いと、プリンやヨーグルト、イチゴなんかを買ってきてくれたけど、どうも食欲が沸かない。遅番で出勤してきた前田は、俺の顔を見るなり「具合悪そうですね。大丈夫ですか?」と、優しく声を掛けてくれる。

「原因が分からんけど、しんどいわ。」
「顔色が悪いですもん。」
「ほんまに?」
「はい、病院に行った方が良いですよ。」
「明日、行ってくるわ。」
「この時間でも診察してくれる病院もありますよ。」
「そんなに大袈裟なんとちゃうから。」
「そうですか。」

 プリプリで働くことになったばかりの頃は、ただの風邪のような症状でもスグに病院に行く俺に対して、「看護婦さんとの出会いを求めてるだけでしょ。」と呆れていた前田だけど、最近では俺の影響を受けて、人間ドックに行ったり、医薬品のことを調べたり、俺よりも病院大好き人間になっている。

「今週の売り上げ、ここに置いておきます。」
「あ、見せて。」
「いや、体調が戻ってからでも。」
「ええねん。頭は、ちゃんと動くから。」
「そうですか。」

 相変わらず、イツキちゃんは調子が良い。アイミちゃんとのツートップで、この店を盛り上げてくれている。そして、第二グループには、シホちゃんとか、ノリコちゃんとか、俺とはあまり接点がなくて、ほとんど話もしたことがないような女の子たちが続いているんだけど、その中に、マインちゃんの名前が入っている。

「これって、あのマインちゃんやんな?」
「そうです。店長が名づけ親の!」
「もう一人のうるさい子は?」
「アイちゃんも、ほぼ一緒のシフトで入ってますよ。」
「全然、売り上げが違うやん。」
「そうなんですよ。意外にもマインちゃんが当たりでした。」
「ほんま、意外やな。」
「店長、仕事の話をすると、体調が戻りましたね。」

 あ、忘れてた。俺は今日、体調が悪いんやった。前田に指摘されたら、急に咳が出てきた。腹も痛い。うまく説明が出来ないけど、この腹の奥の方が、なんかズキズキというか、ドンドンというか、とにかく痛いわ。たぶん、熱もある。これは、明日は病院に行かなアカンわ。

「今日はもう、早めに帰らせてもらうで。」
「はい、ほんと、お大事に。」
「明日は、朝から病院に行くから。」
「はい。」
「もしかしたら、一日、休むかもしれん。」
「はい。」
「週末やのに、ごめんな。」
「いえいえ、まずは体調を万全にしてください。」

 わざわざ店内にも鳴り響くような咳をして、腹を手で抑えながら、前かがみの姿勢のまま、店を出る。もしかしたら、前田が店を出て、俺のことを見送ってくれてるかもしれないから、まだ演技を止めてはいけない。念には念を入れて、四条大橋に辿り着くまでは、仮病を続けた。

「ただいま。」
「今日は早いやん。どうしたん?」
「え、なんか朝から体調が悪いねん。」
「出掛けるときは、普通やったのに。」
「店に着いてから急に・・・」
「じゃあ、早く寝んとアカンな。」
「そうやねん。」

 自宅に帰ったら、もう仮病をする必要はないんだけど、なんだか流れ上、そのまま継続してしまった。

「明日、朝から病院に行くから。」
「そっか。分かった。」
「土曜日は、午前中しか診察してくれへんから。」
「そうやね。」

 もう、この流れに乗るしかないから、ぐったりとした表情を浮かべて、弱々しく「おやすみ」とささやいて、ベッドに入る。本当は、朝からプリンとか、ヨーグルトみたいなものしか食べてないから、腹が減って仕方がないんだけど、もりもりとご飯を食べたら話の辻褄が合わないから、ここは耐えるしかない。

 ベッドで横になって、サエコがリビングで子供たちと一緒にアニメソングを歌っているのを確認してから、携帯電話を取り出して「明日、初めてのデート、楽しみにしてるからな!」と、ミカにメッセージを送る。ミカからは「わたしも楽しみだよ!姫路城ワクワク」と、目のところが星マークになった絵文字入りの返信が来た。ほんまワクワクやわ。

 それにしても腹が減ったわ。まぁ、これは、セフレを卒業するための試練やから耐えるしかない。


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