この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百六十六話「カップル」

time 2016/12/23

第百六十六話「カップル」

 高島屋の大きな包みを抱えたまま、タクシーで祇園まで戻り、プリプリの前を足早に通り過ぎ、ブクープへと向かう。さすがに、全体ミーティングのために皆が集まっている職場に派手な包み紙の荷物を持って登場するのもどうかと思うから、困ったときのタケちゃん頼みだ。

「あれ、タズヤン、えらい早い時間に、どないしたん?」
「ちょっと、これをしばらく預かっといてくれへん?」
「ええけど、なにこれ?」
「いや、ちょっとお客さんに貰って・・・」
「あ、そうなんや。」
「うん。」
「でも、これ、タズヤンのカードの明細が入ってるで。」
「絶対にウソ。俺、現金で支払ったから。」
「へー。」
「あ・・・。」

 よくよく考えたら、タケちゃんには嘘をつく必要なんて無い。ミカに関することを簡単に説明して、「そういうことやから、しばらく預かっといて。」と頼んだ。タケちゃんは、ニコニコと笑顔で、俺の話を聞いてくれているんだけど「うん、分かった。分かった。」と軽いノリなので、なんだか怖い。

「タケちゃん、ほんま内緒やで。」
「どうしよっかなぁ。」
「タケちゃんが話したら、俺もアレを話すで。」
「アレってなに?」
「アレやん。アレ。」
「俺、タズヤンみたいに、やましいこと無いもん。」
「あ、そうなんや。ほな、言うたろ。」
「いや、タズヤン、ごめん。俺、何も話しません。」

 ミカと付き合い始めてからの俺は、自分でも自覚できるほどに常に浮かれている。次に会う予定が何日で、どこで何を食べようか、何の話をしようかと、暇さえあればミカのことを考えているような有様だ。たぶん、俺が今まで三十九年間を生きてきて、最も恋をしている。

全体ミーティングにも身が入らないし、次の日も、その次の日も、やっぱり腑抜け状態のまま。ただ毎日を、ミカと会える日までのカウントダウンをして過ごしている。

「もしもし、田附と申します。」
「はい、田附さま。本日の十九時からご予約の。」
「そうです。予約、間違いないですよね?」
「はい、しっかりと承っております。」
「良かったです。」
「もう五日前から毎日、ご確認の電話をいただいていますから。」

 いよいよ今日は、ミカの二十四歳の誕生日だ。なんでも好きなものを食べさせてあげると言ったら、「また、あのフォアグラが食べたい!」という答えが返ってきたから、ふたりで初めてデートをした、あのフレンチを予約しておいた。

「ミカ、誕生日おめでとう。」
「ありがとう、ヒロキ。」
「はい、プレゼント。」
「開けても良い?」
「うん。」
「ちょっと待ってね。」

 高島屋の岸本さんの見立てが間違っていて、気に入ってもらえなかったらどうしようかと、包装紙を丁寧にゆっくりと開けるミカの表情を見ながら、少し不安になる。こういうドキドキ感を味わうのも、いつ以来なのか分からない。

「うわぁ。すごい!」
「気に入ってもらえた?」
「使いやすそうだし、ばっちり!」
「良かった。」
「ヒロキ、良いセンスしてるね。」
「いや、岸本さんが。」
「岸本さんって誰?」
「高島屋の婦人物の売り場のひと。」
「その人が選んでくれたの?」
「そう、俺、そういうの疎いから。」
「ナイス判断!素敵!」

 嫌いなものは嫌い、無理なものは無理と、はっきりと意見を言ってくれる子だから、俺の誕生日プレゼントに関しては、正直に喜んでくれているようだ。シャネルとか、ヴィトンじゃなくて大丈夫なのかとも思ったけど、ちゃんとミカの好きなブランドを選んだのも正解だったようだ。

「俺たち、お似合いのカップルやな。」
「カップル?」
「え?違うの?」
「カップルって言うか、セフレかな?」

 これも、きっとミカの正直な意見だ。俺がひとり舞い上がって、彼女のことを交際相手だと認識していたけど、どうやら勘違いだったようだ。もしかしたら「セフレかな?」の後に、「冗談だって。」って続くのかと待ってみたけど、期待通りの言葉は出てこなかった。

「だって、一緒にご飯食べて、エッチしてるだけだし。」
「そら、そうやけど。」
「こういう関係を、なんて言えば良いの?」
「えっと、まぁ、セフレ。」
「うん。そうだよね。」


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コメント

  • 最高に面白い。一気にこれまでの全部読ませていただきました!

    by まめ €2017年1月2日 11:38 PM

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