この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百六十三話「源氏名」

time 2016/12/20

第百六十三話「源氏名」

 たまたま夏休みで京都観光に来ていたところをナンパして捕まえたノブエちゃんと、ヤスコちゃんの大学生ふたり組が、面接に来た。お揃いのブランド物のバッグを持ち、艶々としたブラウンのロングヘヤーも同じで、どことなく雰囲気も似ているから、最初は姉妹かもしれないと思いながら声を掛けたけど、全くの赤の他人らしい。

「辞めたいときに、辞められますか?」
「もちろん。」
「テスト期間中は、休めますか?」
「もちろん。」
「じゃあ、働きます。」

 ヤスコちゃんが基本的に話をして、ノブエちゃんは横で頷いているだけ。身なりを綺麗にしているし、派手に遊んでいるようだから、遊ぶためのお金が欲しくて、風俗で働くことにしたのだろう。二人とも、風俗って何なのか分かっているのか不安になるほどに落ち着いていて、物怖じする様子がない。

「いつから働ける?」
「え、今日からでも。」
「そうなんや。」
「はい。」
「じゃあ、明日から来てくれるかな。」
「分かりました。」
「あとは、前田、頼んだで。」

 ここまでが俺の仕事で、あとはマネージャーに任せる。従業員名簿としてファイリングしておくための用紙を書いてもらいながら、出勤できる曜日の確認や、うちの店のシステムの説明など、いつも通りの手順が進められていく。

「前田さん、これって何ですか?」
「え、本籍。」
「ホンセキって何ですか?」
「本籍は、本籍やん。」
「わたし、それ、知らないです。ノブエ、知ってる?」
「知ってるわけないやん。」
「ほら、免許証のここに書いてるやろ?」
「ほんまや!でも、ただの住所やん。」
「そう、ただの住所。」
「専門用語を使われたら、わたしら分からへんわ。」

狭いオフィスだから、前田と女の子たちの会話は全て聞こえているけど、わざわざ俺が口を出す必要もなさそうだ。

「前田さん、源氏名って、いつ決めるんですか?」
「そやな、今、決めよか。」
「自分たちで決めることも出来ますか?」
「もちろん、ええで。」
「私がマイで、この子がミカ。いいですか?」
「うん、他の子と被ってないから、ええよ。」
「やった。ありがとうございます。」

「いや、ちょっと待って。それはアカン。」

 前田に全て任せるつもりだったのに、思わず話に割り込んでしまった。俺は、源氏名にマイって名前を付けるのは、かなり特別な場合だけにしたいと思っている。もちろん、あのワンダラーのマイのように、誰もが伝説の風俗嬢になって欲しいとは思うけど、どう見ても、この子じゃない気がする。あと、ミカっていうのも、今の俺には特別な名前だからアカン。

「なんで、マイとミカなん?」
「えーっと、英語のMyとMeから取って・・・」
「なんやそれ?」
「アイ・マイ・ミー・マインのMyとMeです。」
「いやいや、ミカの“カ“は、どっから来てん!」
「そんなん、ミーって名前は、おかしいでしょ。」
「お前ら、ピンクレディに謝れ。」

 この業界が長くなると、こういう類の意味不明な会話にも慣れてくる。なかには、驚くような学歴の女の子もいるし、学歴とは関係なく頭の切れる女の子もいる。でも、こんな感じの頭の配線が何本か足りないような子の割合が、世間一般よりも高いように思う。

「それやったら、アイとマインで、ええんちゃうの?」
「え?アイと、マイン?」
「そう、アイちゃんと、マインちゃん。」
「それ、めっちゃ良いです!私、アイにする。」
「ほらな、さっきより、ええやろ?」
「さすが店長、プロですね。」

 自分が何を褒められているのか、全く理解できないけど、どうにかマイとミカを死守できて良かった。アイちゃんと、マインちゃんも、嬉しそうに帰って行ったから、明日から一生懸命に頑張って、しっかり稼げるようになってくれたら、ええなぁ。

「前田さぁ、マイとミカはNGにしといて。」
「はい、分かりました。他に何かNGは、ありますか?」
「えーっと、サエコ・・・いや、サエコはOKでええわ。」


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