この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百六十二話「前田企画」

time 2016/12/19

第百六十二話「前田企画」

 五山の送り火が近づき、相変わらず暑い。遅番で出勤早々の前田が「暑いですねぇ。」と言いながら事務所に入ってくるから、うるさいなぁと思いつつも無視していたら、俺が聞こえてないと思ったのか何度も繰り返し「暑いですねぇ。」と連呼する。

「暑いのは分かってるわ。うるさいなぁ。」
「あ、すみません。」
「浴衣は、ちゃんと揃ったん?」
「はい、ばっちりです!もう、完璧です!」

 先月の上旬、前田が初めて自ら考えたというイベントの企画を、俺に持ち込んできた。それが、女の子たちが浴衣を着て、お客さまをお迎えするというもの。すぐに脱いでしまうから、浴衣である必要性を感じないけど、せっかくの前田オリジナル企画だから、「好きにしたらええよ。」と、ふたつ返事でオッケーしていた。

 最近の前田は、イツキちゃんと上手くコミュニケーションが出来ていて、女の子たちからの不満を解消しながら、日々の営業に励んでいる。俺は、ピンクデザイア時代の苦い経験があるから、あまり女の子たちとは深く関わらずに、マネージャーたちに現場を委ねるようにしている。もう、女の子たちの派閥争いみたいなのには、巻き込まれたくないねん。

「そういえば、明日、ひとり面接するから。」
「女の子ですか?」
「そう、かなり可愛いで。」
「接客スキルが高い子なら、良いですね。」

 さすがに前田も、分かってきている。単なる美人は、風俗には不向きだ。もちろん、容姿が整っていることで、アルバム指名やネット指名などでお客さんに選んでもらえる可能性が高いけど、そのお客さんをリピートさせて本指名をしてもらうためには、容姿ではなく、接客スキルが重要、いや、全てだと言っても良いだろう。性格の良し悪しも、全く関係ない。

 特に前田は、お客様に女の子をオススメするのがピカイチに上手いから、多少の容姿の悪さは気にしていない様子で、営業的には本当に頼もしい存在になっている。人気の高い女の子たちを目当てに来たお客様に対して、他の女の子も勧めてみる努力をしているところは、ほんまに偉いと思う。

「ちょっと、店長、これ見てよ。」
「なに?どうしたん、イツキちゃん。」
「つんつるてん、つんつるてんやねん。」
「ほんまやな。ちょっと短いな。」
「ちょっとちゃうやん。メッチャやん。」

 イツキちゃんは、うちの店で最も古株なんだけど、相変わらず落ち着きがない。前田が買ってきた浴衣の裾が短いのが不満らしい。

「これ、大五郎やんか。」
「はぁ?なにを言うてんの?」
「子連れ狼、知らんの?」
「また、えらいオッサンと付き合ってるやろ?」
「あ、バレたし。」

 元々は内藤店長のオンナだったイツキちゃんは、中年以上じゃないと付き合えないらしい。ただ今回に関しては、子連れ狼とか言ってるから、さらに随分と年上の男なのかもしれない。たしかに、若い男だと、この子の相手は無理そうだから、初老くらいの男の方が、ちょうど良いのだろう。

「そんなに気になれへんよ。」
「うそやん。絶対ウソ。」
「ほんまやって。」

 こんな風に、何でも思ったことを口に出す明るい性格が、老若男女を問わず、多くのお客さんに受けていて、今年に入ってからも、一度だけアイミちゃんに負けただけで、他の全ての月で、トップになっている。あ、うちの店には、女のお客さまは来ないから、「老若男」やな。ロウニャクナンって、なんか気持ち悪いけど。

「もう、店長、何とかしてよ!」
「え、なに、まだおったん?」
「この無礼者!」
「なんやねん、その時代劇みたいな喋りは。」

 前田が「店長の仕事の邪魔をしたらアカンから、早く部屋に戻ろう。」と連れ戻しにきたけど、何かのスイッチが入ってしまったイツキちゃんを止められず、さっきよりも騒がしい。

「お前ら、うるさいわ。」
「おい、この紋所が目に入らぬか!」
「もう、ええって。」
「女郎屋の主、田附。その手下、前田。」
「なになに?」
「貴様らの狼藉、この桜吹雪が、」
「イツキちゃん、乳丸出しで何してんの?」


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