この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百六十話「ストラップ」

time 2016/12/15

第百六十話「ストラップ」

 京都の人間なら誰でも知っている割烹料理屋のカウンター席を予約しておいた。白いシャツに、流行りのローライズのパンツを合わせたミカは、いつもより大人びて見える。ミカなら、どんな店に連れて行っても恥ずかしくない。

「今日も、綺麗やな。」
「ありがとう。」
「俺、ほんまミカのこと、好きやで。」
「もう、恥ずかしいから。」

 こんな綺麗な子なのに、あまり褒められ慣れていないらしく、俺が「綺麗やん。」とか「素敵やわ。」とか口に出すたびに、照れくさそうな表情を浮かべるのが、かわいらしい。

「はもって食べたこと、ある?」
「はもって何?」
「え?はも、知らんの?」

 地球温暖化の影響なのか何なのか、今年の京都は、例年よりもさらに暑い。あまりに暑くて、食欲も沸いてこないから、さっぱりしたものが食べたくて、今日はこの店にした。おそらく九州出身のミカは、「寒いより暑い方が良いでしょ。」とは言っているけど、それでも少し夏バテ気味のようだ。こういう時には、はもが美味しい。

「ミカって、九州出身やんな?」
「そう。」
「九州のどこ?」
「内緒。」

 もう三回目のデートなのに、彼女のプライベートについては、ほとんどが謎のままだ。彼女のことを色々と知りたいという思いはあるものの、半ば諦めている。だから、とりあえずは聞いてみるけど、断られたらスグに別の話をする。ずっと、これの繰り返し。

「俺、大学の時にアキコっていう子と付き合っててな。」
「あ、スッポンのひと?」
「そうそう、それそれ!」
「スッポン女が、どうしたの?」
「ある日に、俺がな・・・」

 ミカが何も教えてくれない分、とにかく俺は自分のことを包み隠さずに話している。高校時代にピンサロに通ってた話とか、歌舞伎町でファッションヘルスにデビューした話とか、伝言ダイヤルで高額請求が来た話とか、一回目の結婚のこととか、離婚のこととか、サエコのこととか、とにかく何でも思いついたことを話している。

「あ、これ、誕生日プレゼント。」
「え?知ってたん?今日が誕生日って。」
「当たり前でしょ。」
「知らんと思ってたわ。」

 ミカから受け取った小さな箱を開けてみると、グッチの携帯電話につけるストラップだった。俺からしてみれば金額的には大したものではないけど、おそらくミカには少し値の張る買い物だったに違いない。

「つまらないものですが。」
「ブランド物やん。」
「グッチ、嫌いじゃないよね?」
「うん、俺、グッチ好きやねん。」
「喜んでもらえて良かった!」

 こんな風に、思いがけずに貰えるプレゼントって、めっちゃ嬉しい。そういえば、サエコからも出掛けるときにプレゼントを貰ったけど、あれとは全くの別物だ。まだ社会人になったばかりで大した収入もない女の子が、わざわざ俺のために、ちょっと無理してブランドもののストラップをくれるなんて、桁違いの嬉しさだ。

「そろそろ、家に遊びに行かせてや。」
「無理。そのうち。」
「あ、いつかは行けるんや。」
「うん、そのうち。」

 ここから遠いからとか、部屋が散らかっているからとか、普通の女の子がするような言い訳は、ミカからは出てこない。ただ純粋に、無理なものは無理と言ってくれる。だから今夜も、俺がセレクトした郊外のラブホテルへと向かう。

 もう三回目だけど、やっぱりミカの身体は美しい。頭のてっぺんから爪先まで、全てがパーフェクトな女だ。そして、お互いに求めているものが同じだから、ここでも無駄な会話や抵抗はない。とにかく二人が満足するまで絡み合ってから、ミカを先にタクシーに乗せて見送ってから、俺も帰路につく。

 やっぱり、彼女の余韻が頭のなかに溢れている。さっき貰ったばかりのストラップをぶら下げたケータイを取り出して、「今日も、ありがとう。」とショートメッセージを入れると、五分ほど経って「こちらこそ、いつも美味しい食事をご馳走様です」と、最後にハートマークが入った返信が来た。めっちゃ嬉しいわ。

「お客さん、着きましたよ。」
「あ、はい、すみません。」

 さらに何かメッセージを返すべきか悩みながら、静かに玄関の扉を開けて、忍び足でリビングに入る。

「おかえりなさい。」
「え?あれ、サエコ、まだ起きてたん?」
「サクラコが、やっと寝たとこ。」
「そうか。」
「あれ?そのストラップ、どうしたん?」
「あ、えっ、これは・・・」


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