この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百五十九話「誕生日」

time 2016/12/14

第百五十九話「誕生日」

 サエコが、サクラコと共に自宅へと戻ってきた。サエコの両親に預かってもらっていたカオルコも帰ってきて、田附家の家族四人の新しい生活が始まった。カオルコには、まだ長女になったという自覚がないから、これまでと同じようにお母さんに構って欲しそうに、べったりとサエコから離れない。

「ほら、お父さんのところに行きなさい。」
「いや、お母さんが良い!」

「カオルコ、パパのところに来てや!」
「いや、お母さんが良い!」

 幼い頃は、母親の方が好きなのも分からなくもないけど、こんな風に、あからさまに俺よりもサエコの方が良いって言われたら、ちょっと凹むやん。まぁ、いきなり、「お父さんの方が良い!」って言って来られても、何をしたら良いのか分からんから、困ると思うけど。

「じゃあ、パパも、お母さんが良い!」
「ちょっと、何してんの?」

 サエコの右腕にしがみつくカオルコに対抗して、俺は左腕にしがみつく。サクラコが泣き出すと、俺とカオルコは振り払われて、静かに泣き止むのを待つ。そして、サエコの手が空いた瞬間、両側から二人が飛びつく。俺に負けじと一生懸命に頑張っているカオルコの姿が、かわいい。こういう家族の時間も、ほんま幸せやな。

「そろそろ、行かなアカンで。」
「あ、ほんまやな。」
「今日、遅いねんな?」
「そや、店長会議やから遅なるわ。」
「頑張ってな。」
「おう。」

 今晩は、ミカとの三回目のデートだ。お互いに話し合ったわけでもないけど、なんとなく週に一回くらい会うという暗黙の了解になっていて、ミカが日付を決めて、俺が店を決めて、現地集合という流れが既に自然になっている。

「パパ、誕生日おめでとう。」
「あ、そっか。」
「そうやで、三十九歳おめでとう。」
「ありがとう、サエコ。」
「はい、プレゼント!」
「ありがとう。覚えててくれたんや。」
「当たり前やん。」
「そうか。」
「夜は仕事やから、今、渡しとこうと思って。」
「ありがとうな。」

 もちろん、自分の誕生日くらい覚えているけど、自宅で誕生日パーティをすることになったら最悪やから、忘れたフリをしていた。おそらく偶然だけど、ミカから指定されたのが今日だったのだから仕方がない。俺は今、ミカに夢中やねん。

「店長、おはようございます。」
「おはよう、吉田。」
「誕生日おめでとうございます。」
「おう。」
「これ、早番の皆からのプレゼントです。」
「わざわざ、ありがとうな。」

 頭に負った傷の抜糸が済んだ吉田は、以前にも増して生き生きと仕事に取り組んでいる。人間って、浮き沈みのようなものがあって、仕事に夢中になれる時と、全く仕事に身が入らない時があるけど、今の吉田は、仕事が楽しくて仕方がないといった様子だ。

 思えば、去年の今頃、俺はまだ吉田の部下だった。内藤店長のやり方を絶対だと思う吉田とは、あらゆることで意見が対立していて、ほとんど会話をすることもなかった。あの頃の俺は、掃除した便器の淵を、自分の舌で舐めさせられたりしてたもんな。この一年間は、ほんまに色んなことがあったわ。

 こんな頑張っている俺のことを神様が見ていてくれて、ミカとの出会いをプレゼントしてくれたに違いないと、余計なことばかりを考えていたら全く仕事が手につかない。もう早めに店を出ようかとも思ったけど、きっと前田たちも何か祝いを用意してくれているはずだから、遅番が出勤してくる時間までは待つ。これも店長の仕事のうちだ。

「おはようございます。店長。」
「おう、前田、おはよう。」
「あの、店長・・・」
「ん?なに、どないしたん?」
「あの、イベントのことなんですけど。」
「イベントって、大袈裟やなぁ。」
「いや、来月のイベントのことで。」
「あ、そっちのイベントか。」
「え?はい。」
「好きなようにやってみたらええよ。」
「ほんまですか?」
「あんまり、無茶なことすんなよ。」
「はい、分かってます。」

「それだけ?」

「はい・・あ、あと、店長・・・」
「ん?なに、どないしたん?」
「遅番の女の子たちと話し合いまして。」
「お、おう。なになに?」
「つまらないことなんですけど。」
「ええよ、そんなん。気持ちやから!」
「そうですかね?」
「そら、そうやん。」
「あの、金曜と土曜のシフトを少しイジります。」
「はぁ?」
「金曜日と土曜日のシフトを・・・」
「もうええわ!」

 仕事が少しできるようになってきたからって、前田に期待した俺がアホやった。早くミカと会って、価値観を共有できる者同士の楽しい時間が過ごしたい。今日は、どんな服で来るんやろ。どんな話をしようかな。ああ、めっちゃワクワクしてきたわ。


sponsored link

down

コメントする