この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百五十六話「祝い」

time 2016/12/09

第百五十六話「祝い」

 翌朝、いつもより早めに家を出て、病院に立ち寄った。サクラコは、新生児室で寝ているため、ガラス越しに眺めるだけで、話しかけたり抱きかかえたりは出来なかった。サエコの方も、昨日は元気そうにしていたけど、やはり大仕事を終えて疲れがたまっていたのか、まだイビキをかいて寝ている。

 ベッドの上のサエコに向かって「また、夕方に来るから。」とだけ言って、病室を出る。念のため、看護婦さんに「なにか必要なものがあったら買ってくるから電話して。」と伝言を頼んだ。綺麗な若い看護婦さんがいないかとナースセンターの奥の方を覗き込んだけど、ミカちゃんを超えるような逸材はいない。

「店長、おめでとうございます!」
「第二子が産まれたご感想をどうぞ。」
「名前はなんて言うんですか?」

 店につくと、女の子たちから祝福の言葉と、質問攻めにあって、やっと二人目が産まれたんだという実感を得た。シズエとの結婚生活は酷いものだったけど、今回は随分と上手くいっている。

 午後になって、会長から呼び出された。また何か怒られるのかと思ったら、「祝儀や。」と言って、財布の中からつまみ出した札束をくれた。最初にゴソっと百万円くらいを取り出して、さすがに多すぎると思ったのか半分くらいを戻して、残りを俺にくれたから、おそらく五十万円くらい。

「会長、ありがとうございます!」
「おう。」
「では、店に戻ります。」
「今日くらいは、奥さんに優しくしたれよ。」
「分かってます!」

 時計を見ると四時過ぎ。昨日は突然のことで病院に来られなかった俺の母親が、弟と一緒に名古屋から来ている。店に戻っていると京都駅での待ち合わせに間に合いそうにないから、前田に電話連絡だけして、そのまま直帰することにした。

「ほんとに何も出来ませんで。」
「いえいえ、わざわざ遠いところから。」
「カオルコちゃんの面倒も見てもらって。」
「かわいい孫ですから。」

 病院に着くと、サエコの両親も来ていて、おじいちゃんとおばあちゃん同士の奥歯にモノが挟まったようなぎこちない会話が繰り広げられた。そんな様子を見ながら、弟とサエコは、口元に笑みを浮かべてニコニコしていた。俺も、もうすぐミカちゃんに遭えるのかと思うと、ニコニコが抑えきれない。

 いつもサエコのことを良く面倒を見てくれている看護婦さんが病室に来て、「サクラコちゃんが起きましたよ。」と教えてくれた。しばらくして、新生児用のベッドに乗せられたままのサクラコが、看護婦さんに連れられて来ると、一同が「かわいい」の大合唱で迎え入れた。

 俺は賑やかな病室を、用もないのに一度、外に出てから、少し神妙そうな顔を作って、再び病室に戻る。そして、サエコと弟に、「ごめん。ちょっと緊急の用事が出来た。」と耳打ちして、病室を後にした。アカン、やばい、遅刻しそう。

 病院のエントランスで客待ちをしているタクシーに飛び乗って、南座へと向かう。この時間はいつも渋滞しているから、かなり危なかったけど、何とか五分前に到着した。まだ、ミカちゃんは来ていないようだ。見落としていないかと何度もウロウロと見て回ったけど、あの光り輝く女の子はいなかった。

 七時を十分ぐらい過ぎて、向こうの方から、ミカちゃんが小走りでこちらに向かってくるのが見えた。遅刻なんて気にしない子かと思ったけど、急いでいるところを見ると、意外と真面目な性格なのかもしれない。

「ごめんなさい!遅れました!」
「ええよ。そんなことより、電話くれて、嬉しかったわ。」
「こないだのナンパ、楽しかったから。」
「ほんまに?」
「うん。」
「今日も、めっちゃ可愛いやん!」


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