この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百五十三話「俺のやり方」

time 2016/12/06

第百五十三話「俺のやり方」

 三日後、頭にネットを被った状態だけど、吉田が店に出勤してきた。見た目が痛々しいから、まだ客の前には出られないけど、裏方として動く分には問題がないからと言っている。接客はアルバイトに任せて、タオルの回収や、女の子の使いパシリをやるらしい。

 事件があった翌日、病室に見舞いに行った俺は、鮫島店長と話した内容を全て正直に、吉田に伝えた。それから、「俺らは俺らのやり方で、頑張るしかない。」という俺の考えを話して、吉田の表情を窺っていると、「そうですね。がんばりましょう。」と答えてくれた。だから、頭にネットを被った吉田が、精子まみれのタオルの詰まった袋を運んでいる姿を見て、ちょっと泣きそうになった。

「ほな、俺、ちょっと出かけるわ。」
「お疲れ様でした、店長。」
「新しい女の子を見つけてくるで。」
「お願いします。店長!」

 鮫島店長には負けてられないし、吉田の頑張りにも触発されて、今日は気合十分だ。うちの店の弱みは、やっぱり女の子の層の薄さにあるから、エース級の女の子を採用しなければならない。とはいえ、他店からの引き抜きは、しばらく自粛せざるをえない。だから、俺は俺のやり方で、とびきり可愛い女の子を捕まえる。

 四条河原町の交差点にある世界地図のモニュメント前は、夕方を過ぎて、待ち合わせをする男女で賑わっている。梅雨が明けて、少しずつ気温が上がってきたから、女の子の服装も露出が多くて、いい感じだ。まずはひと通り、めぼしい人材を見て回ろうと思って、キョロキョロしていたら、周りの女の子とは別世界にいるようなモデルのような超美人が目にとまった。

 ひまわりの柄のキャミソールを着て、脚をクロスさせた状態で立っている。ケータイを見ながら、ただ暇そうに立っているんだけど、とてもエレガントに見える。あんな子と、話がしたいなぁと思う前に、思わず声を掛けていた。

「ちょっと喫茶店でも、行きませんか?」
「無理。」
「え?」
「友達と待ち合わせしてるから、無理。」
「あ、そっか。」

 普段なら、ここで引き下がって、別の女の子を探すんだけど、この子は違う。別の子を探すと言っても、この子を見た後では、誰もが霞んでしまう。それくらい別格に超美人だ。

「友達は、男の子?女の子?」
「え、女の子。」
「そうなんや。」
「そう。」

 何を聞いても、不愛想な返事だ。とはいえ、一応は返事を返してくれるから、嬉しい。ナンパをしていると、俺のことを蔑むような視線を浴びせて来る子も多いけど、この子は迷惑そうな素振りさえ見せない。

「待ち合わせは、何時なん?」
「もう過ぎてる。」
「なんかあったんかな?」
「分からない。」
「あっちに座れへん?」

 きっと、「無理。」のひと言で流されるのだろうと予想していたけど、彼女は素直に移動して、花壇の淵に二人で腰かけた。

「あの、俺、タヅケヒロキ。」
「あ、はい。」
「名前、教えてよ。」
「無理。」

 隣同士で座るのは良くて、名前を教えるのは「無理。」という彼女の判断基準が全く分からないけど、俺が会社の名刺を差し出したら、素直に受け取ってくれた。

「バツイチで再婚して、娘が二人おるねん。」
「え、奥さんがいるの?」
「そう、もうすぐ二人目も産まれんねん。」
「意外。」
「そう?兄弟とか姉妹とか、いるの?」
「無理。」

 なにか質問をしたら、すぐに「無理。」って言われて行き止まりになってしまう。謎のベールに包まれた美人の女の子、素敵やん。

「風俗の店で、店長をやってんねん。」
「ふうぞく?」
「女の子がエッチなことをする店。」
「あ、その風俗。」
「うん、そうそう。」

 俺は必ず、自己紹介は正直にする人間だから、結婚していることも、子供がいることも、風俗をやっていることも包み隠さずに話をする。八割くらいの女の子は、風俗と聞いたら嫌そうな顔をするけど、この子は、特に意に介していない様子だ。

「でも、今日は、ただのナンパやから。」
「ふふ。」
「あ、はじめて笑ってくれた。嬉しい。」
「だって、堂々とナンパっていう人、珍しいから。」
「え、そうかな。」

 その時、彼女のケータイが鳴った。どうやら、友達とは直接、今晩の食事をする店で会うことになったらしい。もう少し、話をしたかったけど、名刺を渡したから、きっと電話をかけてきてくれるだろう。

「なぁ、名前、教えてよ。」
「ミカ。」
「え?」
「私、ミカと言います。」

 店の新人を見つけに街に出たつもりが、いつの間にか、ただのナンパになっていたけど、これも俺のやり方だ。


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