この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百五十二話「俺らのやり方」

time 2016/12/02

第百五十二話「俺らのやり方」

 鮫島店長からの返答に対して、俺から言い返す言葉が見つからず、ただ何となく「ほな、店に戻るわ。」とだけ言って、階段を降りてきた。

 これまでにも、暴力でスタッフを黙らせて、自分のやりたいように店を回す店長というのは、何人も見てきた。男性スタッフを自分の下僕扱いして、店の頂点に君臨するというやり方が、実は風俗業界では標準なのかもしれない。でも、俺は個人的に、ああいうやり方は、好きになれない。部下なんだから、給料を払ってるんだから、高圧的な態度で接して当然だと思い込んで、偉そうにしている自分に酔いしれているような奴が、世の中にはいっぱいいる。

「怒られましたか?」
「え?」
「いや、鮫島店長に。」
「なんで俺が怒られるねん。」

 吉田が殴られたという話を聞いた前田が、普段よりも早めに店に出勤してきたようだ。こいつにしたって、元々は業界のことを何も知らずに入ってきて、別に殴ったり蹴とばしたりしていないけど、十分に頑張っている。だから、俺の店には暴力は必要ない。

「しばらく、昼から出勤するようにします。」
「ええで、前田。俺がやるから。」
「店長は、店長の仕事があるじゃないですか。」
「お前、めっちゃ優しいやん。」

 でも、鮫島店長は、これまで見てきた種類の人間とは、どこかが違う。何かが違う。はっきりと口では説明できないけど、ただ単に暴力を振るって、傲慢な態度をとっているだけの人間ではない。

「アルバイトには、店先に立つなと厳しく言っておきました。」
「おう、ありがとう。」

なんというか、あの鮫島という男は、お客様に対して徹底的に尽くそうと夢中になっている。自分の店を磨き上げて、一切の言い訳を排除して、いわば「風俗道」のようなものを掲げて、部下たちにも道の指導をしているのかもしれない。そう、あれが、彼のやり方なんだ。

「店長、この後、求人広告のひとが来るみたいですけど。」
「それが、どないしたん?」
「なんか考え込んでるみたいなんで。」
「求人のことぐらい、寝てても話できるから大丈夫や。」
「そうですか。分かりました。」

 アルバイトの西も、マネージャーの前田も、自発的に店のことを考えて行動してくれている。俺のことを心配して、気遣ってくれたりして、どっちが部下なのか分からなくなる。俺は、こんな家族みたいな雰囲気が好きだ。

 鮫島店長と同じことをやれって言われても、俺には無理だ。そういえば、うちのグループのトップも、鮫島店長と同じ人種か。あんな風に、自分に絶対的に自信を持って、とにかく俺の言うことを聞いてたらええねん!って感じでやっていくのは、ほんま大変やと思うわ。俺、あんなんやってたら疲れるし。

「失礼します。」
「石川店長、どうしたん?」
「なんかえらい騒動やったみたいですね。」
「別に、大したことちゃうし。」
「そうですか。」
 
 普段なら、「また来たんか。」と思うんだけど、今日は何だか石川店長が可哀想な人だと感じる。政治的な策略のようなことばかりに夢中になってて、自分の仕事に集中できてない。あれだけ大騒ぎして、鮫島を追い出すって言ってたのに、いつの間にか静かになってしまっているから、これも中途半端。

「ちょっと心配になって、様子を見に来ただけです。」
「ありがとう、石川店長。」

 とはいえ、うちも他所のことを言ってられるほど余裕があるわけじゃない。鮫島店長のようなやり方が出来ないから、負けを認めるというわけでもない。俺が居心地が良くて、スタッフも居心地が良くて、女の子も同じく居心地が良くて、みんなが楽しいと思えるような場所を作って、お客さんに楽しんでもらうだけや。

 そう、俺らは俺らのやり方で、頑張るしかない。そう思った。


sponsored link