この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百五十一話「指導」

time 2016/12/01

第百五十一話「指導」

 吉田が店の前で、ボコボコに殴られたと聞いて、真っ先に頭に浮かんだのは、あのレッドポイントグループの松山さんのことだ。グループ内で湧き上がっている俺への不満を押さえつけて、わざわざ俺の店に訪ねてきて、頭まで下げてくれたけど、やっぱり若い人間のなかには不満を持っている奴がいて、吉田が標的になったんだろうと思った。

「おい、吉田は大丈夫か?」
「今、タクシーに乗せて、病院に向かいました。」
「タクシーで良かったん?」
「タオルで血を止めたんで、何とかなると思います。」
「救急車を呼んだら良かったのに。」
「いや、警察が来たらアカンと思ったんで。」
「そら、そうやな。」
「はい。」
「西、ありがとう。」

 もちろん、レッドポイントグループの若造が犯人なら、しっかりと警察を呼んで、犯人を捕まえてもらわないといけない。しかし、犯人はレッドポイントグループじゃない。俺もまだ信じられないんだけど、吉田を殴ってボコボコにしたのは、ピチピチグループの人間だ。

「なんで、吉田が殴られたん?」
「店の前で、電話するなって。」
「はぁ?」
「客が入ってくるのに、邪魔やろって。」
「ま、まぁな。」
「マウントで思いっきり顔面を殴ってましたよ。」
「無茶苦茶するなぁ、あの鮫島店長は。」

 うちの店と、鮫島店長のピチピチマダムは、共通のエントランスになっている。だから、吉田にしてみれば自分の店の前で電話をしていただけなんだけど、鮫島店長にとっては、自分の店先で電話をしている吉田が気に入らなかったんだろう。それにしても、頭の皮膚がバックりと割けて、血が止まらんようになるくらいまでボコボコにする必要はないやん。

「鮫島店長のとこ、行ってくるわ。」
「はい。」

 三階にあがると、すぐに鮫島店長がいた。相変わらず、デカい。俺よりも十五センチくらい身長が高いから、そこにいるだけで威圧感がある。店の従業員の男二人を並ばせて、背筋を伸ばして立つように、指導しているようだ。右側の男が、思いっきり背中を叩かれて、顔をゆがめている。

「あのぅ、鮫島店長。」
「あ、田附店長。おはようございます。」
「うん、おはよう。」
「お前らも、しっかり挨拶せえや、アホ。」

 今度は、左側の男の頭を、思いっきりグーで殴った。二人は、かなり甲高い声で「おはようございます!」と口を揃えて、俺に挨拶をした。

「どうされたんですか?田附店長。」
「いや、あの、吉田のことやねんけど。」

 鮫島店長の口元が少し緩んで、微笑むというか、ほくそ笑むというか、マンガだと「ニヤリ」というキャプションが付きそうな表情になった。そして、脇に立っているスタッフの二人の顔を一瞬だけ確認してから、もう一度、俺の方を向いた。脇の二人は、眉ひとつ動かさず、ただ無表情を貫いている。

「ああ、プリプリの若い子ですね。」
「若いっていうか、うちのマネージャーです。」
「あ、あいつ、マネージャーなんですか。」

 鮫島店長と吉田が初めて顔を合わせたとき、俺も同じ場所にいたから、吉田がマネージャーだとしっかり名乗ったのを覚えているし、鮫島店長が「田附店長のところのマネージャーさんやから、かなりのヤリ手なんやろうな。」と返したのも覚えている。

「なんか、吉田が失礼なことをしたみたいで。」
「ああ、ちょっと指導させてもらいました。」

 とりあえず、鮫島店長と会って話をしようと思って、上に来てみたものの、お互いの考え方の違いが大きすぎて、何の話し合いも出来なかった。立つ姿勢が悪いと言って背中を叩いて、挨拶が出来ていないからと頭をグーで殴るひとなんだから、店先でケータイでおしゃべりをしていたら、ボコボコに殴りまくるのも当然のことなのかもしれない。

「いや、田附店長、出過ぎたマネをして、すみませんでした。」
「まぁ、ええわ。ありがとう。」
「いえいえ、お互い様です。うちのモンにも厳しく指導をお願いします。」


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