この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百五十話「ボッコボコ」

time 2016/08/24

第百五十話「ボッコボコ」

 いきなり会長から、このタイミングで呼び出されるなんて、どう考えてもレッドポイントの件しか考えられない。相手方の専務が、わざわざ俺を店にまで訪ねてくる事態に発展したんだから、怒られても仕方がない。でも、やっぱり怖いわ。

「えらい騒ぎやったみたいやな。」
「すみませんでした。」
「別に、問題ないやろ。」
「ええ?」
「こっちが知らんだけで、あっちもやってることやろ。」
「まぁ、そうですけど。」
「栗橋は、えらい騒いでたけど、気にせんでええ。」
「そうですか。」
「おう。」
「ありがとうございます!」
「それだけや。」

 こんなことだけの為に、俺のことを呼び出したのかと拍子抜けしたけど、なんかメッチャ嬉しい。朝までコースで、延々と怒られることを覚悟して来たけど、ビビって損したわ。電話で話してくれても良さそうな話を、直接、面と向かって伝えてくれた会長の思いを勝手に想像して、ニヤニヤしてしまう。

「あら、久しぶりやないの、ヒロキくん。」
「ママ、今日は飲むで!」
「会長さんとご一緒?」
「いや、俺ひとりやで。」
「あれ?さっき、栗橋さんが電話くれはったけど。」
「え?なんて?」
「奥のボックス席、空けといてって。」
「え?」

 この店に、栗橋がひとりで来るはずがないから、たぶん会長と一緒だ。せっかく全てのことから解放されて、ひとりで祝杯やと思ってたのに、ここで会長と遭遇したら意味ないやん。ママには、次に来た時には派手に飲むからと約束して、会長には俺が来たことを黙っておいてもらうよう強く言って、早くしないと会長が来てしまうよと追い立てられるように店の扉を開けたところで、見事に会長と鉢合わせた。

「おう、なんや田附。」
「あ、会長。」
「もう帰るんか?」
「は、はい。嫁が身重なんで・・・」
「まぁ、ちょっと座れや。」
「え、あ、はい。」

 なんで、こうなるんだろうか。会長と飲み始めて、ちょっとの訳がないやん。栗橋が少し遅れてきて、その後、しばらくして鮫島店長も合流した。開店したばかりのピチピチマダムは調子が良くて、うちのプリプリも悪くはないから、いつものように会長の罵声が飛ぶこともない。なんか平和やな。

「田附、他の方法は考えてんのか?」
「なにの方法ですか?」
「女の子を集める方法や。」
「しばらくは、求人雑誌ですね。」
「アホか、お前。」
「え、あ、いや。」

 完全に油断してた俺が悪いんだけど、会長からの最初の質問に対して、適当な答え方をすると、そのあとが怖い。もちろん、求人雑誌がダメなら、街に出てスカウトしたり、出会い系サイトを使ったりと、他の方法も考えているんだけど、「アホか。」でスイッチの入った会長を、誰も止められない。俺、本日の主役決定。

「もしもの事態を考えとけや。」
「はい。」
「次々と、新しいことを考えろ、アホ。」
「はい。」
「今で満足してるんやろ。」
「違います。」
「満足してるから、そうなるねん。」
「はい。」

 結局、自宅に帰り着いたのは、朝の七時半すぎ。サエコは既に起きていて、カオルコと一緒にテレビを見ている。酔っぱらった姿をカオルコに見せるのは、教育上、良くないような気がして、足音を立てないように気を付けながら浴室に行って、そのまま湯船に浸かった。

「会長さんと一緒やったん?」
「そうやねん。」
「やっぱり。」
「なんで分かるん?」
「あなたの奥さんを何年やってると思ってんの?」
「そうか。」

 浴室の扉を少し開けて、サエコと話をする。付き合い始めた当初は、いつもこんな風にして、サエコと話をしていた記憶がある。

「新しい子の名前やねんけど。」
「うん。」
「サクラコで、どうかな?」
「予定日は、いつやったっけ?」
「七月の二十日くらい。」
「サクラって、季節外れやな。」
「あ、そっか。」
「でも、まぁ、ええやん。」
「ほんまに?」
「うん、ええ名前やと思うで。」

 もう疲れたから、今日は店を休んでも良いかなと思い、携帯電話のアラームを消してベッドに入った。さすがに疲れていたらしく、すぐに眠りに落ちたらしい。携帯の呼び出し音に起こされて、時計の時間を見ると、午後の三時。

「もしもし、田附店長、西です。」
「西?ああ、早番の西か。」
「はい、吉田マネージャーの下の西です。」
「で、なに?」
「はい、あの、マネージャーがですね・・・」
「吉田が、どうしたん。」
「ボッコボコに殴られて、流血しまして・・・」
「はぁ?」


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